――確かにノマドと非ノマドは、会社員に対するフリー、大企業に対する個人事業主といった対立の構図で語られることが多い。それは「安定・固定・不自由」の対極にある「不安定・移動・自由」である。「ほぼ日」で奨励されている「公私混同」の働き方って、大企業的というよりノマド的に感じるが、意外にも糸井さんはノマド的な働き方の利点よりもその限界について多くを語った。
『新装版 ほぼ日の仕事論 はたらきたい。』

僕らの今いるオフィスにはミーティングルームとか多目的部屋が結構あるんです。働くスペースだけなら今の3分の2もあれば済むんですけどね。つまり何のためにあるかわからない場所を含めて仕事なんですよ。使うかわからない部屋がたくさんある、ということを突き詰めると、純粋なノマドは成り立たないということになる。働くインフラはお金出す人がいるか、自分たちが出し合うかしないとつくれないんですよね。仕事の仕方って面積とか地理とか、そういうものと大きく関わるんじゃないかなあ。そこをみんな「パソコン1台あれば」って言いすぎですよね。

場所ってものすごく大事だと思いますよ。吉本隆明さんに「いい職場の条件ってなんでしょう」と聞いたことがあったんです。「日があたって、まわりにお茶を飲む場所があって、きれいな建物で、先輩が愚痴をきいてくれる」ところだと。それだけでしたね。で、「みんなが大企業にいきたがるのは、建物のせいもある」って。それは如実にわかります。広いスペースがあって何に使ってもいい場所があると、それに合わせて仕事をする。こんなところで集まれたらいいね、という人たちが集まったらそこからプロジェクトができますよ。そういう仕事のインフラみたいなものって大企業は儲かった時代にいっぱいつくっています。目的があって、優秀な人を集めて、じゃあどこで仕事を組み立てるのかといったときに、すごく狭いところでやるのと広い野原のようなところでやるのとではできるものが変わってきますよね。

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