「多種少量」と「趣味文化」の相性の良さ

ドール愛好家なら誰もが知っている「オビツボディ」。多くのドールメーカーに採用されている素体(ドールのボディ)です。この素体は、業界初の補助スタンドなしで自立できるもので、関節の可動幅も大きく、人間が取り得るあらゆるポーズを再現できます。

このオビツボディを制作するのは、秋葉原の近くの葛飾にあるオビツ製作所です。オビツ製作所は、他社に素体を供給するだけでなく、最近では自社ブランドのドールも企画し生産しています。これまで数種類のオリジナルドールを受注生産で販売していますが、どれも好評で、完売済みのドールもあります。

オビツ製作所がある葛飾は、昔から玩具工場が集積していて、オビツ製作所もこれまでソフトビニール玩具やフィギュアなどを製造し、販売してきました。

玩具製造も一般的なものづくりと同じように、金型からの成形が基礎になります。オビツ製作所は長年、スラッシュ成形という、加熱した金型の側面に素材を付着させ、さらに加熱させて成形し、冷やしてから固まったものを引き抜くという手作業を行ってきました。この成形のための焼き具合がとても難しく、熟練の職人技が必要です。

ところが、設備投資さえすれば、職人技がなくても大量生産ができるインジェクション成形という手法が主流になり、多くのメーカーが中国に進出しました。それに合わせて、葛飾の玩具工場の数も少なくなりましたが、オビツ製作所は、職人技が必要なスラッシュ成形工程をドールの素体づくりに活かしました。スラッシュ成形の金型は、インジェクション成形の金型の8分の1の費用で製作できるため、多種少量の生産が可能になります。ドールは愛好家向けの趣味の製品なので、少量生産でも対応できる伝統的成形方法は、ちょうど適していたのです。

関連記事
「ああっ七福神さまっ!」
「祭りは対立を解くチャンス」
「『打ち水』が冷まそうとしたもの」
「ものづくりを支える電気街の底力」
「コスプレをビジネスにするには(前編)」