みな、働く女性として定年までを多忙に過ごし、男性と同じく地域との交流は少なかった。「友達と住めたらいいね」と田矢さんらが考え始めたのは03年、田矢さんが60代後半になってからのことだった。実現するまで、それから5年の月日を要することになる。
最初は十数人いたメンバーも本気の人だけが残り、何度も空中分解しかけたが、物件探しに行き詰まった07年暮れに、やっと理想の物件が見つかった。「友達と住みたい」という女性は多いが、だいたいは計画途中でとん挫する。実現できた秘訣は何だろう。
「程よい距離感でいること、自立していること、強い意志があったこと」と川名さん。さらに「この実験にのってやろう」という好奇心……つまり気持ちの若さが重要なのではないか。
田矢さんは言う。
「高齢期は特に人とのつながりがないと寂しいです。子供や友達がいても、1時間もかかる場所に住んでいたら、倒れたときに間に合わない。仲間とは、支え合うけど、もたれ合うことはしません。近くにいるだけで心は温かいですよ」
お金や家だけでなく、「安心で豊かで楽しい老後」には友達が一番大切なのだ。
しかし、この肩書抜きの「お友達づくり」が、男性には苦手な人が多い。男性同士で、ここまで手間をかけて友人と住もうという人はちょっといないのではないか? もっと手軽に「安心」を手に入れる方法はないだろうか。
実は早くに入れば入るほどお得という「終の棲家」もあるのだ。
「日暮里コミュニティ」は、生活科学運営が企画・運営する、介護付き有料老人ホーム、賃貸住宅、保育園などが1つの建物内にある多世代共生施設。見せてもらった自立型の部屋はゆったりしたワンルーム。2人で住める広いタイプもある。部屋は普通のマンションと何ら変わらない。違うのは、朝、1階のボードに在室の表示をしないとスタッフが部屋に確認にくること、24時間いつでも呼べばすぐにきてくれること。そして入居金を払えば死ぬまでの利用権が持てる点だ。