世界一巨大な組織はどうスピード化したか

機敏で俊敏な新しい敵にはポスト冷戦時代の階層モデルでは対応できなかった(Getty Images=写真)

規模と俊敏性を両立させるためには、組織をネットワークにつくり変える必要がある。だが現状維持の魅力は多くの人にとって抗いがたい。20世紀の階層モデルはリーダーにとっても投資家にとっても安全で確実で、安心できるものだ。ネットワークは予測不可能な振る舞いをするように感じられる。社会集団を築くにはよいが、統制のとれた決定を下す必要がある大規模な組織にとっては望ましくないように思えるのだ。

シリコンバレーのスタートアップ企業やハイテク企業以外に、手本になるモデルが何かあるだろうか。その一つは思いもよらないところにあった。おそらく世界で最もクジラに近い組織、米軍だ。国防総省の組織ほど大規模な階層組織は世界に類がない。だが、この巨大な組織の内部では、組織設計や意思決定の分野で驚くほど多くのイノベーションが行われているのである。

9.11の出来事は米軍に、「ネットワークに打ち勝つためにはネットワークが必要」であることを実感させた。新しい敵は身軽で機敏で、急速に進化するネットワークであり、ポスト冷戦仕様の階層モデルではもう対抗しきれなくなっていた。巨大な米軍には今やスピードも必要になっていたのである。軍内部のこの変革を主導した人々は、それまでの階層型の組織関係に対して、ネットワーク型の組織関係を思い描いた。そして、軍がその規模および外部にまで拡大した関係のネットワークを、障害ではなく利点として生かせる新しいモデルを生み出した。