手帳術の飽和状態
さて、特集を逐一紹介しても煩雑なので、ここで記事のパターンを整理して示すことにしましょう。概していえば、特集は以下のような内容で構成されています。「手帳の達人」の手帳観についてのインタビュー、達人に聞く手帳の使い方、読者による独自のノウハウの紹介、その年によく売れた手帳、著名人がプロデュースする手帳の紹介、手帳の選び方ガイド、手帳の付属品・アクセサリーの活用法、読者の手帳利用状況調査、デジタルツールとの併用法、等々。
手帳の用途も、概していえばここまでに示したもの、つまりスケジュール・情報・アイデアの管理、目標実現、モチベーション向上等が中心ですが、糸井さんの登場した2006年あたりから、チームワーク向上、ダイエット、育児への活用等、さらに用途が広がっていくことになります。
こうして年々、手帳にはこのような用途があるという主張が繰り返されて定番化し、「手帳術」が積み重ねられ、いわば「手帳術」の歴史が形成されていく『アソシエ』のうちに、2つの傾向を見出すことができます。
一つは、「手帳術」の際限のない増殖です。特に2009年以後、著名人・読者から提供される独自の「手帳術」は、もはや整理しきれないほどの量で示されています。2009年特集では「達人の最新テクTIPS45連発!」の後に、「読者29人の手帳TIPS75」「文化人・経営者・アスリート…総勢27人 私の手帳、お見せします!」という記事が続きます。2010年特集では「活用の達人40人に学ぶスゴ技」、2011年特集では同様に「達人30人“こだわりのワザ”」、そして2012年特集では「達人に学ぶ『実践ワザ』100」というように、毎年これでもかという分量の「手帳術」が示されるのです(『アソシエ』では、表紙・目次・本文で記事タイトルの表記が異なることがままあるのですが、ここでは掲載場所を問わず「量」を表している表記をピックアップしています)。特に2012年特集の分量は12ページから115ページまで、つまり100ページを超すものになっています。
これはもはや、「手帳術」はこうだ、というセオリーが成立しないということを意味しています。まさに無数の「手帳術」のすべてを使おうとすれば、矛盾をきたすか、自分自身で混乱してしまうだけでしょう。唯一の抜け道は、無数の選択肢のなかから、自分の性格や用途に合ったものを選び、組み合わせ、応用することです。少なくとも『アソシエ』の特集を見る限りでは、2000年代末から2010年代初頭にかけて、「手帳術」は飽和状態に達したように見えます。