従業員は失望…トランプ氏の采配に望み

バイデン氏が国家安全保障上の懸念を理由に阻止を決定したことを受け、製鉄所労働者らから失望の声が相次いでいる。CBSニュースが現地で取材した。

クレアトン製鉄所の保守技術者であるアンドリュー・メイシー氏は、「(設備投資、製鉄能力の維持、ボーナス支給など)日本製鉄が約束している全てのことを考えると、これが良くないと言える人がいることが信じられない」と語る。メイシー氏は1986年にUSスチールの別工場で解雇を経験しており、今回の買収阻止の知らせを受け、「体が麻痺したような感覚だった。1986年当時の『これからどうなるんだ』という感覚が蘇ってきた」と振り返る。

製鉄所の労働者であるブライアン・パブラック氏は、最後の望みとして、トランプ次期大統領への働きかけを計画している。パブラック氏は2023年10月、ペンシルベニア州ラトローブでの集会でトランプ氏と対話する機会を得て、「大統領になったら、もっと詳しく調べてみよう」との言葉を引き出したという。トランプ氏は就任後に買収計画を阻止する意向を示しているものの、パブラック氏は考えを変えさせられる可能性があると一縷の望みを託し、買収承認を求める手紙を送る準備を進めている。

パブラック氏は、昨年12月に行われた前述の集会でも意見を主張。「日本製鉄との取引がなければ、この歴史的な製鉄所で働く最後の世代になる」と訴えていた。同氏は「製鉄労働者の90%以上が売却に賛成している」とも述べ、買収に賛成する従業員の声を代弁した。

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「モンバレーは死んでしまう」日本製鉄への根強い期待

ピッツバーグ周辺の製鉄所集積地であるモンバレー地区のクレアトン市長、リチャード・リッタンジ氏も、日本製鉄が計画する27億ドルの投資に期待を寄せていた。製鉄業の落ち込みを念頭に、「タイムリミットが近づいている」と焦燥を募らせる。

リッタンジ氏は昨年12月、「家族や友人、親戚、同僚に話しかけて、『この取引を成立させなければならない。そうでなければモンバレーは死んでしまう』と伝えてほしい」と危機感を示していたが、バイデン氏の判断を変えるには至らなかった。

米製鉄業は19世紀後半から20世紀前半にかけ、主要産業として米経済を支えた。しかし現在、サービス業への構造転換や海外からの安価な鉄鋼材の輸入に押され、業界はかつての勢いを失っている。当然、米国内には引き続き強い需要が存在する。

だが、設備更新すらまともに行えない今、日本製鉄による好条件での買収案の提示は、かつて米経済を支えたUSスチールに復活の息吹を与える最後の好機であった。バイデン氏による買収阻止に、落日を肌で感じていた現場の従業員らが失望を隠せないのも無理はない。

日本製鉄とUSスチールは引き続き、1月20日に就任するトランプ次期大統領による買収容認への期待を含め、買収成立への道を探っている。設備投資や従業員に対する厚遇を約束する日本製鉄に対し、現地での期待はまだ潰えていない。

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