勃たなくなった老人たちの会員制秘密クラブ

「セックスフレンド」ならぬ、一緒に横になり添い寝するだけの相手のことを「添い寝フレンド」(俗称・ソフレ)といいますが、川端にはそのソフレをテーマにした中編小説『眠れる美女』もあります。

三島由紀夫が「熟れすぎた果実の腐臭に似た芳香を放つデカダンス文学の逸品」と評した名作です。ちなみに「デカダンス」とは「退廃」という意味です。

舞台は、男性としての機能をなくしてしまった(つまりアソコがたなくなった)老人たちが集まる秘密クラブ。会員制の宿に入り、ビロードのカーテンをめくると、その向こうには睡眠薬で眠らされた美しい女性たちが横たわっています。

眠れる美女を、愛撫しても抱きすくめてもいい。しかし、性行為に及んではいけないというのが、この会の鉄則です。

主人公の老人は、静かな寝息を立てている娘の横に添い寝し、過去に触れ合った女性の体を思い出します。唇、うなじ、乳房、手首、脇腹、そして口から発する匂う吐息、肌の感触についての精緻な描写は、さすがの筆力としか言いようがないほどのリアリティがあります。

川端作品の特徴は、相手とのいかなる感情的な交流も愛の葛藤も、一切排除されていること。性的な交わりもなく、恋愛や性をテーマにした文学作品のなかでも、異色の存在です。

ここまで深く“偏愛”を追究した作家は、川端をおいてほかにいないといっても過言ではありません。だからこそ私は、川端こそ究極の「愛の専門家」だと思うのです。

鎌倉市長谷の自宅にて(画像=作者不明/PD-Japan-oldphoto/Wikimedia Commons
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