「非公式な仲介役」として活用する可能性
ウクライナにとってはロシアへ大幅な譲歩となるので、トランプ氏はウクライナに対して、停戦後の何らかの経済的な支援を提案したと予想される。バイデン政権はウクライナに毎月数十億ドルの経済・軍事支援を行っているとワシントン・ポストが報じているが、これが見直されればウクライナは停戦せざるを得ない状況に追い込まれる。
一方、対ロシアでも、トランプ氏は停戦に向けて柔軟なアプローチをするのではないか。
ロシアのプーチン大統領は簡単には停戦には応じないだろう。しかしトランプ氏は前回の大統領時代、プーチン大統領と直接交渉できる関係にあった。停戦が実現すれば、ロシアとの経済関係の一部回復なども数年単位では起きてくるのかもしれない。
スターリンクの戦略的活用としては、停戦に向けてウクライナに対応しているものを、ロシアとの交渉材料にしていくと思われる。また、現状ロシアに対して経済制裁がされているが、その解除なども交渉の材料になるだろう。
こうした外交の局面において、トランプ氏はコネクションが豊富なマスク氏を非公式な仲介役として活用する可能性がある。
大義は必ずあって、同時に私利私欲もある
テスラ、スペースX、生成AIのxAI、脳インプラントのニューラリンクなど、マスク氏が手がける事業は多岐にわたる。トランプ政権で「政府効率化省(DOGE)」のトップになれば、その負荷は膨大なものとなるだろう。
これまでマスク氏は、自分がフォーカスしたものに対しては物理学的ミクロのレベルで突き詰め、リターンを得てきた。ツイッター買収後にテスラ株を大量売却したように、トランプ政権で「政府効率化省」が発足したら、それがテスラ氏のなかで最大のプライオリティとなる可能性はある。しかし大局的には、宇宙レベルの壮大さで考えて、アメリカにとってプラスとなることをするはずだ。
同時に、自分の事業にプラスになるような影響力も行使していくだろう。ビジョンの実現に向けて仕事をしながら、事業も収益を上げていく。大義は必ずあって、同時に私利私欲もある。この表裏一体がマスク氏の真骨頂といえる。
マスク氏は、「このままだと気候変動で人類が地球に住めなくなってしまうから、その前に火星に移住できるように」と言って、2002年にスペースXを立ち上げた。「気候変動をスピードダウンさせよう」と言って2003年にテスラを立ち上げた。こうした壮大なビジョンは、ある程度は本気だと筆者は思っている。みずからが描いたビジョンの実現を目指すために、大胆な組織改革やテクノロジーの開発を推進するのが「イーロンウェイ」なのだ。
一方でトランプ次期大統領の在任期間である4年間にわたって、マスク氏との蜜月関係が続くかどうかわからない、というリスクはある。2017年に気候変動対策で両者が対立したように、何かの問題が生じて両者に亀裂が入ることはないとは言えない。そうなったときには、米中関係や米露関係などにおいて、緊張が激化するようなことも起こるかもしれない。