中国叩きのトランプ氏、中国と蜜月関係が続くテスラ
もっとも米中関係は、マスク氏の政権入りによって複雑化する可能性がある。マスク氏のテスラにとって、中国は生産においても市場としても最重要地域となっており、蜜月関係が続いている。
一方でトランプ氏は、大統領時代に「中国叩き」で有名であった。今回の大統領選挙では中国の影響力が表面的には低下しているため、あまり対中政策は論点にならなかったが、それでもトランプ氏は対中関税の100%への引き上げを公約にするなど、厳しい姿勢を見せている。
トランプ氏の自国第一主義(アメリカ・ファースト)の姿勢も影響して、これから米中経済圏の分離は進むだろう。世界は「グレーター・アメリカ(アメリカや西欧を中心とした経済圏)」と「グレーター・チャイナ(中国を中心とした経済圏)」に分離されていくと思われる。一方で、テスラなど中国との関係が深い企業は、生産地として、あるいは消費地としての中国との戦略的協力も模索することになる。
トランプ新政権が対中強硬路線をとれば、関税だけでなく中国のハイテク産業への圧力もかけていくことが予想される。その場合、中国にとってマスク氏の存在は、重要な非公式の交渉チャンネルとなる。マスク氏の働きかけによっては、ある程度融和することもあるかもしれない。
いずれにしてもマスク氏がテスラCEOとしてどのように影響力を行使するかによって、あるいはトランプ氏とマスク氏の関係性の変化によって、米中関係が難しい局面を迎える可能性がある。
気候変動対策でもトランプ氏とは真逆の意見
気候変動政策においても、温暖化対策は詐欺だとしてきたトランプ氏と、テスラでEVを推進してきたマスク氏では真逆の立場をとっている。11月8日付のニューヨーク・タイムズに「マスク氏は地球温暖化を信じている。トランプ氏は信じていない。状況は変わるだろうか?」という記事が掲載された。
トランプ氏は地球温暖化をフェイクニュースだと断じ、1月20日の大統領就任日に、即日、パリ協定から離脱するとしている。大統領選挙期間中に石油・ガス会社のコンチネンタル・リソーシズ創業者のハロルド・ハム氏を含む関係者から7500万ドル以上を集めたとされるトランプ氏は、石油や天然ガスなどの化石エネルギー産業の振興を図っていくだろう。地方での選挙演説でトランプ氏は「ドリル・ベイビー・ドリル(掘って、掘って、掘りまくれ)」と言い、喝采を浴びた。
一方のマスク氏はこれまで気候変動問題を重要視し、EVや太陽光発電などのクリーンエネルギー技術を支持してきた。2017年にトランプ氏が、アメリカはパリ協定から離脱すると発表したとき、マスク氏は抗議して2つの大統領諮問委員会を辞任した。しかし、最近では「私は環境保護に賛成だが、気候変動を解決するために農家を失業させる必要は絶対にない」とXに投稿するなど、対応の緊急性については緩やかな立場をとるようになってきた。
トランプ氏の支持に回ったマスク氏の気候変動に対する考え方は、政権入りによって、ある程度軌道修正される可能性はあると思われる。