世界的な大富豪同士の「決闘」
米起業家イーロン・マスク(Elon Musk)氏と、米交流サイト大手メタ(Meta)のマーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg)CEOという世界的な二人の大富豪が本当に「決闘」する(かもしれない)ということで、ネットを中心に大きな話題になっている。
メタ社が、マスク氏自身が所有するX(旧Twitter)に対抗する新たなSNS「Threads」のサービスを開始したことで、両氏の対立が深まり、この「決闘」騒動は、マスク氏が「金網マッチ(ケージマッチ=囲いの中で行う格闘技)」で戦おうとザッカーバーグ氏に挑発したことから始まった。
当初はジョークかと思われたが、両氏とも戦いの準備はできているとし、お互い対戦日を提案するなどしてきたが、8月イタリア政府も同国での開催に正式に同意し、「決闘」はにわかに現実味を帯びてきた。
マスク氏(52歳)は、身長約188cm、体重約85kg、一方、ザッカーバーグ氏(39歳)は、身長約170cm、体重約70kg。体格では、マスク氏が圧倒的に有利に見えるが、ザッカーバーグ氏は39歳と若く、しかも、今年のとある柔術の大会で見事優勝している。それに負けじと、マスク氏も柔術のトレーニングを本格的に開始したと言われている。
我々日本人にとって、「決闘」はあまり馴染みがなく、イメージが湧きづらいかもしれない。しかし、ヨーロッパにおいては、「決闘」は古代から続く歴史と伝統のあるものである。
歴史と伝統のあるヨーロッパの「決闘」
中世のヨーロッパでは、殺人、姦通などの事件でことの真偽がはっきりしない場合、最終的な「神の裁き」として、争いの当事者またはその代理人が一対一で決闘をして、その結果に従って紛争に決着をつけるという裁判が行われていた。
これを「決闘裁判」と呼ぶが、歴史は古代ゲルマン人の時代まで遡る。一種の「神判」であり、その根底には、真実を主張している者に神は必ず味方するという考え方があった。しかし、時の経過とともに、「神判」は徐々に衰退し、14~5世紀には、「決闘裁判」も歴史舞台から姿を消し去る。
これ以降の近世のヨーロッパにおいては、名誉をめぐる争いごとなどを解決する目的で、当事者同士の合意のもと、予め了解し合った一定のルールに基づいて行う一対一の「決闘(duel)」(=果し合い)が激増していく。「決闘による無条件の名誉回復」という表現がよく使われたが、これは、何らかの理由で名誉を汚された者が、侮辱した方に決闘を挑み、侮辱した方(決闘を挑まれた方)が、その決闘の挑戦を受けるという権利と義務のことである。
侮辱を受けた者が決闘を申し入れないことや、決闘を申し込まれた者がこれを受諾しないことは、最大の不名誉とされていたので、決闘は頻繁に行われた。名誉を汚され、侮辱を受けた者は、その相手と命を懸けて決闘することによって、自分の名誉を挽回・回復し、すべてを清算することができた。
戦争との大きな違いは、関係のない者まで巻き込むことなく、当事者二人だけで争いごとを解決したわけであり、「決闘」はまさに、人類が考え出した最も賢明な紛争解決手段とも言えよう。