寝ている間に背骨を骨折していた

手足は細いけれど、お腹周りは鏡もちのようにどっしりしていて、子どもたちからは「雪だるまに爪楊枝の手足を刺したみたい。手足が可哀想」と心配されていました。

ある日、銀行へ出かけたキョウコさんは、雨で濡れたフロアですべって転倒した拍子に手首を骨折。搬送先の整形外科で思わぬことを告げられます。

「骨粗しょう症ですね。非常に骨折しやすくなっています。治療しましょう」

薬を飲み始め、転ばないよう気を付けた他、子どもたちにすすめられ公営プールでの水中歩行にも挑戦しましたが、薬はたびたび飲み忘れ、プールも続きません。

「忙しいんだもの、しょうがない」と言い訳しながら1年が経過した頃、恐ろしいことが起こりました。深夜、眠っていたキョウコさんは、突然の背中の激痛で目を覚ましました。寝返りを打つことも、起き上がることもできません。2階で寝ていた息子を大声で呼ぶと、幸い気が付いて、すぐに救急車を呼んでくれました。

診断は骨粗しょう症から来る「脊椎圧迫骨折」。背骨の骨折です。

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コルセットを装着して安静にし、痛み止めを飲んで、3週間入院していれば治るはずでした。でも治らず、入院は3カ月に及びました。

脛が黒く壊死してしまった

さらに、退院後のキョウコさんには、新たな異変が生じていました。

入院中も携帯電話で部下に指示を出したり顧客に電話したりと、仕事を休まなかった彼女は、帰宅するなり「車の運転くらいはできる」と飛び回り始めたのですが、どこかおかしい。会社から持ち帰った荷物を見て「いつの間に、誰が持ってきてくれたの?」と仰天し、軽微な追突事故を繰り返す。背中から腰にかけての痛みもひかないと言います。

同居する息子が、悩んだ末、市内のクリニックに連れて行くと、医師はさりげなく認知症検査を行い「軽度の認知症」と診断。異変の背景には認知症があったのです。それから2カ月後、キョウコさんは泣く泣く運転免許を返納。しばらくは息子に手伝ってもらいながら仕事を続けましたが、病状はみるみる悪化していきました。

背骨の骨折から2年もしないうちに、1分前のことも覚えていられなくなり、自分で食事を飲み込むこともトイレに行きたいと訴えることもできなくなりました。そしてついに、膝から下の動脈が詰まる「下肢閉塞性動脈硬化症」を起こします。すぐに血流を再開する手術かカテーテル治療を行う必要がありましたが、「認知症の人には行えない」と断念され、すねから下が黒く壊死えし