整形外科の領域は広い。その中で、頸椎疾患、いわゆる首の病気で最も手術の多い疾患をご存じだろうか――?

正解は「頸椎症性脊髄(せきずい)症」である。この疾患は頸椎の脊髄が通っている脊柱管(せきちゅうかん)が狭いところに、加齢による変化が起こり、椎骨に新しい骨である骨棘(こつきょく)ができたり、椎間板が薄くなったり、膨隆したりして脊髄を圧迫し、麻痺を起こす病気である。

「腕や手がしびれる」症状に始まって、進行すると「手指が使いづらい」といった運動障害が出てくる。

さらに、歩行障害、直腸障害、排泄障害も起こり、QOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)はどんどん悪くなる。すると、自然と生活領域が狭くなり、うつ状態に陥る人も少なくない。

頸椎症性脊髄症は“年だから”“疲れだろう”と勝手に判断してマッサージで終わらせていると、進行してしまう。脊髄が回復できないほどにつぶれてしまうと、手術での回復も難しくなってしまう。

もちろん、軽症では保存療法が一般的。保存療法を受けながら、手術のタイミングを逃がさない。そこが、車椅子生活や寝たきりにならない重要なポイントとなる。

手術のタイミングは『頸椎症性脊髄症診療ガイドライン』によると、以下のようである。「軽症例にはまず保存療法を試みてもよい」「手術適応は進行性あるいは長く持続する脊髄症【歩行障害、手の巧緻(こうち)運動障害(文字が書きにくい、ボタンがかけにくいといった症状)など】、軽症でも保存療法で効果がなく脊髄圧迫の強い青壮年者が手術適応である」「高齢者に対する手術禁忌基準は明確になっていない」。

若年者では軽症でも手術が勧められるケースが多く、高齢者では明確ではない。が、実際の状況は70代がピークで、高齢者の手術は多くなっている。

手術は「脊柱管拡大術」で、術式は大きく2つに分けられる。一つが「片開き式」で、もう一つが「正中開き式」である。

片開き式脊柱管拡大術は圧迫されている脊髄の圧迫をとる手術。首の後方からアタックする。

頸椎の左側部分は溝を彫って骨が折れ曲がるようにして、除圧の対象となる右側椎弓にも溝を彫って椎弓を切断し、椎弓をドアのように左に開き、脊柱管を拡大する。これで脊髄への圧迫は解消されるので、あとは人工骨やセラミックを使ったスペーサーで椎弓が閉じないように保護して終了。

一方、正中開き式脊柱管拡大術は基本は片開き式と同じ。こちらは棘突起(きょくとっき)という背側に突出している部分をまん中から切り、左右の椎弓に溝をつけて折れ曲がるようにすると、椎弓は左右に開き、脊髄への圧迫は解消される。あとは片開き式と同じである。

このほか、「選択的一椎弓切除術」といって、手術個所を極力少なくする新しい手術も行われている。

切開も小さく手術時間も約1時間程度である。

症状が出てから手術までの期間の短い人ほど回復は早いという研究報告がなされている。

【生活習慣のワンポイント】

40代以降に増える頸椎症性脊髄症は「首の外傷経験がある人」「激しいスポーツをしている人やしていた人」「喫煙者」に起こりやすいといわれている。

対応は早期発見につきる。それには「腕や手がしびれる」ときには、次の「10秒テスト」を行ってみよう。

手を前にのばして「グー」「パー」を手でつくる。これを10秒間に何回できたかをチェックするのである。

20回以上できて正常。普通は25、26回程度である。20回以下の場合は脊髄障害が疑われるので、早急に整形外科を受診すべきである。