高級車・高級ブランド品が欲しくなる理由

まず一点目です。ルサンチマンに囚われた人は、そのルサンチマンを生む原因となっている価値基準に隷属、服従した上で、それを解消しようとします。

周囲のみんなが高級ブランドのバッグを持っているのに自分だけが持っていない、というような状況を想像してください。この時、自分が本当に欲しいものではない、自分のライフスタイルや価値観には合わないとして、そのブランドバッグを拒絶することももちろんできるわけですが、少なくない割合の人々は、同格のブランドバッグを購入することで抱えたルサンチマンを解消しようとします。

写真=iStock.com/Neyya
※写真はイメージです

これはなにもラグジュアリーブランドだけに限ったことではなく、たとえばフェラーリなどに代表される高級車やリシャールミルなどに代表される高級腕時計の世界でも同様に起きている事態と考えられます。

ラグジュアリーブランドはルサンチマンを巧みに利用している

これらの、いわゆる高級品・ブランド品が市場に提供している便益は「ルサンチマンの解消」と考えることができます。ルサンチマンを抱えた個人はルサンチマンを解消するための、いわば「記号」としてこれらのブランド品や高級車を購入するわけですから、ルサンチマンを生み出せば生み出すほど、市場規模もまた拡大することになります。

ラグジュアリーブランドや高級車は、毎年のようにコレクションや新車を出してきますが、これは「ルサンチマンを常に生み出すため」と考えてみるとわかりやすい。つまり「最新のモノ」を常に市場に送り出すことによって、「古いモノ」を持っている人にルサンチマンを抱えさせているわけです。

ルサンチマンには製造原価がありませんから、知恵と工夫次第でいくらでも生み出すことができます。無限に生み出すことができるものに高い価格がつけられているわけですから儲からないわけがありません。

これだけモノで溢れかえり、飽和状態になっている日本においても、ラグジュアリーブランドは全般に好調な業績をあげていますが、これはひとえに、彼らが極めて巧妙にルサンチマンを生み出し続けているからだと考えられます。

現代人は「平等性」について極めて精密なセンサーを持っていますから、ちょっとした差に対しても、ルサンチマンを抱えてしまう可能性があります。そして生み出されたルサンチマンは「記号の購入」という形で解消されることになり、かくしてラグジュアリーブランドや高級車市場の業績は、この低成長日本においても堅調に推移している、という具合です。