ハナ肇が病死する少し前のこと、クレージーキャッツのメンバーだった植木等と桜井センリは自宅でふせっていたハナ肇を見舞った。

「ずいぶん弱っていて、もう、もたないことがわかった。だが、ハナは何か話したい様子なんだよ。弱々しい声で切れ切れに『ああ、カツ、カツ』と言う。涙を抑えながら、桜井センリが聞いた。『ハナちゃん、何、カツって何なの?』。ハナは言うんだ。『はあはあ、カツ丼が』と。桜井は泣きそうな顔になっていた。『そうだねえ。うんうん、ハナちゃんはカツ丼が好きだったもの。食べたいんだね』。そばで見ていた私もつらかった。

だが、ハナはまだ話したい様子だ。もう一度、『カツ、カツ』と呟いた。『ハナ、聞いてやるぞ。何でも言ってごらん』とオレが言ったところ、あいつはぜえぜえしながら、『カッ、カツカレーも』と……。

オレたちは爆笑した。『ハナ、カツ丼とカツカレーじゃ食べすぎだ。そりゃ多いよ』。あいつは最後、オレたちを見て、にやっとしていた」

ハナ肇は死ぬ前でも、仲間に笑ってもらいたかった。仲間の悲しい気分を吹き飛ばすために、わざとジョークを言ったのだ。自分のためでなく、あくまで相手のことを思っての言葉だった。

人から親近感を持たれるには相手のことを思い、自分のことを笑い飛ばすことのできる度量がいる。

本田宗一郎とともにホンダを成長させた藤沢武夫は「本田は人に好かれる男だった」と言っている。

「社長にはむしろ欠点が必要なのです。欠点があるから魅力がある。つきあっていて、自分のほうが勝ちだと思ったとき、相手に親近感を持つ。理詰めのものではだめなんですね」

関連記事
アイロニーで存在感を示す ~一流社長、政治家、文化人の「心のくすぐり方」【5】
吉本芸人が指南! 編集部一の堅物クンが大変身
苦手な相手を従わせる「場の空気」のつくり方
自分が失敗をしたときのユーモアレトリック
デーブ・スペクターに学ぶ、嫌われないダジャレ