ペットボトルが開けられず、人生に絶望した高齢女性

【澤円】中島さんが実際に出会った、グリーフに直面した人の例を教えていただけますか?

【中島輝】70歳ほどの女性がグリーフに陥ったきっかけは、「ペットボトルの蓋を開けられなくなった」ことでした。それまでは元気に仕事も家事もこなせていたのに、あるとき突然、固く締まっているペットボトルを開ける力がなくなっていたそうなのです。それをきっかけに、「この先、自分の人生はどうなってしまうのか」と大きな悲しみを感じたといいます。

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【澤円】死別のような、ある意味でわかりやすいきっかけではありませんが、できたことができなくなるということには、確かに大きな喪失感を覚えそうです。そのグリーフに向き合うときに、ベースとして持っておいたほうがいい意識のようなものはありますか?

【中島輝】まず大事なのは、「グリーフは、誰にでも必ず訪れるもの」と認識しておくことです。一般的な寿命で見た場合、親は自分より先に亡くなりますよね? 犬や猫といったペットだって、よほどの高齢者の飼い主でない限り、飼い主よりも長生きすることはないでしょう。

会社都合で、いきなり失職する可能性だってあります。要するに、グリーフは必ず訪れるものであり避けることはできないのですから、心の準備をしておくことは大切であると思います。そういった、認識や覚悟があるだけでも、悲しみは少し軽減されるはずです。

寄り添ってくれる人の存在が救いになる

【中島輝】わたしも、可能な範囲で澤さんのグリーフについてお聞きしてみたいです。その悲しみをどのように受け止め乗り越えたのですか?

【澤円】いくつかの経験があります。ひとり暮らしをしていたときから飼っていた犬が、結婚して2年を過ぎた頃に死んでしまったときと、父が亡くなったときなどは、強い悲しみに襲われました。そのときは、ずっと妻がわたしをサポートしてくれました。

もうひとつ、僕にとって強烈だったのが、仕事上の関係がかなり近かった人が、自殺をしてしまったことです。先の覚悟の話でいうと、前日まで普通にコミュニケーションをとっていたその人が自殺するとは思えませんから、覚悟などはまったくできていませんでした。

とても動揺して、感情を処理できなくなったのです。そして、「彼に対するマネジメントのなかで、僕がなにかミスをしてしまったのではないか……」など、自分を責めるようにもなりました。

そのとき、僕を救ってくれたのは、親しい仕事仲間の存在でした。動揺している僕を見て、「澤さん、自分を責めてない?」「自殺という結果になったけれど、それが彼にとってはベストの選択だったという見方もできるよね」といわれたのです。その言葉によって冷静に事実を受け止められるようになり、「僕が関与してどうこうなる問題ではなかったのかもしれない」と思えるようになりました。

【中島輝】グリーフが訪れて絶望感に包まれているとき、寄り添ってくれる人の存在はとても大切なものですよね。