頭の中の「クッキージャー」とは

頭の声があまりにも強烈だから、負けじと絶叫した。俺は何かをつかみかけていた。すぐにエネルギーが湧き上がるのを感じた。そして、俺がまだ戦い続けているのは奇跡だと気がついた。いや、奇跡なんかじゃない。神の恵みでもない。これをやっているのは俺なんだ!

5時間前にやめるべきだったのに、それでも走り続けたのは俺だ。まだチャンスが残っているのは、俺が走り続けたからだ。このチャンスは、俺が自分でつくり出したんだ。そして、もう1つ思い出した。不可能に思えるタスクに取り組んだのは、これが初めてじゃない!

俺はペースを上げた。まだ走れないが、よろめいてはいない。生気が戻ってきた。そして俺は、自分の過去を、頭の中の「クッキージャー」を掘り起こし続けた。

子どもの頃どんなに生活が苦しくても、母さんはいつもジャーにクッキーを入れておいてくれた。ウエハースやオレオ、バタークッキーやチョコチップクッキーを買ってきて、1つのジャーにザザッと入れるんだ。

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母さんのお許しが出ると、兄貴と俺は好きなクッキーを1、2枚選ばせてもらった。宝探しみたいだった。「何が出てくるかな?」とワクワクしながら手を突っ込んで取り出し、口に詰め込む前にしげしげと見た。

そして、痛みがひきはじめた

とくに、ブラジル(アメリカ・インディアナ州)でその日暮らしをしていた時はうれしかったな。選んだクッキーを手の中で転がしながら、俺なりの感謝の祈りを捧げた。クッキーのような小さなご褒美を喜んでいた、子ども時代の気持ちがよみがえった。そしてその気持ちを腹の底から感じながら、俺は新しい「クッキージャー」を一杯にしたんだ。ジャーの中身は、俺のこれまでの「勝利」たちだ。

高校を卒業するためだけに、人の3倍努力した。これはクッキーだ。高校卒業前にASVAB(軍隊職業適正試験、ペーパーテスト)に合格して、BUD/S(基礎水中爆破訓練)の参加資格を得るためにもう一度合格した。これも2枚のクッキーだ。3カ月弱で48キロ減量した。水恐怖症を克服した。BUD/Sを首席で卒業した。陸軍レンジャースクールで名誉下士官の称号を与えられた。この1つひとつが、チョコチップ一杯のクッキーになった。

俺がこの時経験していたのは、ただのフラッシュバックじゃない。ただ昔の記憶をたどっていただけじゃないぜ。勝利の瞬間の感情をよみがえらせて、「交感神経反応」を起動させたんだ。

アドレナリンがほとばしり、痛みがいい具合に引き始めて、ペースが上がった。腕を振り、歩幅ストライドを広げた。両足はまだ血マメにまみれ、ほとんどの足爪がはがれていたが、それでも力強く進み続けた。そして、とうとう攻勢に出た。時間と戦い、苦痛に顔を歪めながら、ランナーたちを追い抜いていったんだ。