「103万円の壁」解消、財源は不明のまま
国民民主党の大人気政策「手取りを増やす」ための「103万円の壁」解消だが、「103万から178万円に引き上げ」となれば、約7兆円の税収減になると見込まれているが、その財源については明示されていない。同党は11月8日より自民・公明党と政策協議を開始しているが、「財源確保は政府・与党の責任」とひとごとのような反応である。
一方、国民民主党と同様に、日本維新の会は「現役世代の負担軽減」を公約にして、その財源として「高齢者の医療費自己負担3割」を明言したものの、今回の選挙で議席を減らしている。「代表は大阪府出身」「元幹事長の音喜多駿氏は東京生まれ東京育ち」という都市型政党の維新に比べ、「香川二区の玉木代表」「静岡選挙区出身で、ヤギの飼い主としても有名な榛葉幹事長」など農村部出身者が率いる同党では、「高齢者福祉カット」「世代間格差是正」に踏み込むのは困難なのかもしれない。
「尊厳死と終末期医療」で大平元首相を超える政治家に
選挙公示前の10月12日、日本記者クラブ主催の討論会で玉木氏は「若者をつぶすな(手取りを増やす)」と書かれたボードを掲げて、「高齢者医療制度を見直して現役世代の社会保険料負担を引き下げる」「尊厳死の法制化」「社会保障の保険料を下げて手取りを増やす」と提言している。
ジャーナリストの江川紹子氏が「尊厳死をこういう文脈で語ることに恐ろしさを感じる」とXで発信するなど、一部の有識者からは玉木氏が“社会保険料の負担軽減”の文脈で尊厳死に言及したことに批判が集まったが、炎上するほどの騒動にはならなかった。
SNSでは「勇気ある提言」「タブー視せず、議論が必要」などの発言も見られ、当事者の高齢者からの目立った反発はなく、選挙中も問題視されず、国民民主党は大躍進した。
選挙結果から見て、高齢有権者は「医療費3割」には抵抗するが「尊厳死」ならば受け入れやすいのだろうし、農村部出身の玉木氏や榛葉氏は地方の高齢有権者を説得するのに長けているのだろう。
香川県の政治家といえば、「瀬戸大橋に貢献した大平正芳元首相」が筆頭に挙がり、玉木氏は地元では「第2の大平正芳」として大平首相時代を知る高齢者の人気が高い。
今後、玉木氏は「終末期医療見直し」「尊厳死」にも尽力し、公約どおり「手取りを増やす」ことでスキャンダルを乗り越えていけるだろうか。
医療者のひとりである筆者としては、高齢者を説得し、北欧のように「自分で口から食べられなくなった高齢者はそのまま看取る」(それで現地の人々は納得している)といった形が日本社会の同意のもとで採用されれば、今回の汚名も簡単に吹き飛ぶのではないかと思う。瀬戸大橋以上の経済効果を日本にもたらして、大平氏を超える政治家への道筋になるかもしれない。