「周回遅れのデジタルシフト」と新聞社の勘違い

これが第二の論点にもつながってくるのだが、新聞の信頼度は年々低下する傾向にあるとはいえ、NHKと並んでまだ高い水準を保っている(新聞通信調査会が2024年10月13日に発表した「メディアに関する全国世論調査」より)。

毎日新聞が自社サイトでろくに取材しない「こたつ記事」を掲載するということ、それはまだ保たれている新聞への信頼を揺るがす行為であることは論をたない。信頼は長く培ってきた財産だが、崩壊は一瞬で進む。

ただでさえ、マスメディアには逆風が吹いているなかで誤報のリスクが高い「こたつ記事」に手を出すのは、自分たちの信頼を自分たちで切り崩す行為であると認識したほうがいい。「こたつ記事」に関わったのが外部のコンテンツ制作会社だったとしたらなおさら品質管理は難しく、よりリスクが高くなるのは自明である。

毎日新聞には現場を走り回り、真実に迫ろうとする現役記者たちがたくさんいる。しかし、そこまでして毎日新聞が会社として「こたつ記事」に手を出した理由は何か。

収益だけでなく周回遅れかつ勘違いしたデジタルシフト意識が原因としてあげられるのではないか。「PVを稼ぎたい」「収益につなげたい」という新聞社側の意識だけが強く表れ、今回の問題につながったと考えている。

周回遅れとはどういう意味か。簡単にウェブメディアの歴史を振り返っておこう。

90年代後半からゼロ年代にかけて、マスメディアのいらない世界がやってくるとか、新聞もテレビもなくなるとか、誰もが情報の発信者、誰もがジャーナリストとなる「市民メディア」の時代がやってくるといった言説を至るところで目にするようになった。

電話をかける手間すら惜しむ「スピードの論理」

現実の世界で力を強めていったのは、多くの利用者が集まる「巨大なデジタルプラットフォーム」だった。そこで出来上がった世界は「ニュースはタイミングがすべてだ」とばかりに、読者の関心がピークのときに、間髪を入れずにニュースを流さなければPV数にして数十万、数百万の違いとなってしまうというものだった。

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横並びのニュースの場合、速さがすべてだ。アイドルの記者会見、大物芸能人同士の結婚、世間を賑わせた漫画の結末……。なぜ、こぞって速く配信するのかと言えば、それで一定の読者を獲得できるからに他ならない。ちょっとした誤字脱字があったとしても、見出しと内容が伴わなくとも直している数秒、数分の遅れがPV数において決定的な差になる。質的な差よりも、速度が与える影響のほうが、インターネットでは圧倒的に大きくなる。

こうした体系のなかでウェブサイトの利潤が最大化するのは、なるべく多くの読者が関心をもちそうなネタに飛びつき、なるべくコストをかけず、できる限り数を出して、安っぽいコンテンツを見せるときだ。取材費用の心配もない。「こたつ記事」が電話一本を入れる手間すら惜しむにも一つの局面では合理的な行動なのだが、逆から見れば致命的な誤報も訂正すればいいだけの無責任な配信を重ねるインセンティブにもなる。