脳をたくさん働かせるから記憶が定着する
記録が正確すぎると、目が字面を追うだけでかえって読み返すことが雑になりがちですし、補ったり疑ったりして読まないので、その内容をうのみにしやすくなります。タイパを気にする世代なら、なおさらでしょう。そうすると、講演録をじっくり読み返しながら、その勘所を自分の頭の中に蘇らせるという大切な作業がおろそかになるわけです。
手書きのノートを取るときに、「ここが大事」というポイントを選んで残し、それほどではない情報は捨てるという作業をしています。脳内でそうした取捨選択が行われているときにこそ、リアルタイムで思考が進行していくのです。手書きによるそうした過程が記憶の定着を促すと言えるでしょう。
読み返すときも、手書きノートは結果として書かれた情報が少ない分、想像力を働かせる必要が出てきます。それが記憶の取り出しを活発化させ、記憶の定着に寄与することになります。
つまり手書きのノートは、書くときにも読み返すときにも、いや応なく脳をたくさん働かせる方法だと言えます。
電子機器は脳が働く余地を奪っている
対照的にキーボードによるノートは、手作業がやたらに忙しい一方で脳をあまり働かせない方法です。理解や記憶の定着に対して脳を働かせることが、特に学習では重要なのですから。
このようにキーボードなどの道具や電子機器は、利便性を追求する一方で、脳が働く余地を奪ってしまう恐れがあるわけです。パソコンを使えばたしかにスピーディにタイプでき、間違えたときに直すのも楽。プリントすれば読みやすい文字で印字されます。
講義によっては、レポートを書くのにワープロの使用を義務づけることもあるでしょう。それは評価する教員側が読みやすいからそうするのであって、手書きのほうが学生側の教育効果が高いということを見落としてしまっています。