「○○を食べるだけでいい」の罠

健康法のもうひとつの選択は、「ズボラのままでいい」というもの。あらゆるシーンで見かける「○○だけでいいですよ」という誘いだ。人は誰しも病気になりたくない。だからといって、食事法や運動法を継続的に実践したいわけではない。できることなら、最低限のエネルギーでそれを得たい。

そこで、健康法の提供者たちは、あらゆる手段を使って「ズボラ合戦」を行う。

○○を食べるだけでいいです。
1日たった1分でいいです。
あなたは変わらなくて構いません。

つまり、「やりたくない」気持ちに寄り添った“甘い誘惑”をしてくる。これらは誰に対しても当てはまる内容にもかかわらず、オファーを受けた人はまるで「ズボラな私のためにあるサービスだ」と自分特有のものであるように錯覚する。心理学で「バーナム効果」と言われるものだ。

しかし、みんな心のどこかで本当はわかっているはずなのだ。「そんなうまい話はない」と。

ところが、どうしてもそれらを衝動的に選択してしまう。

「なりたくない」と「やりたくない」。どちらもアンウェルカムなもの。

病気になりたくないから、やりたくない健康法を“しかたなく”やる。老けたくないから、やりたくない美容法を“しかたなく”やる。

負の連鎖から抜け出さないと幸せは訪れない

とはいえ、やりたくないものが続くはずがない。続かないから、また別のやりたくない方法を選び直す。しかし、それも続かない。その結果、行き着くのは「自己嫌悪」だ。何をしても続かない自分への嫌悪や惨めさが湧き出してくる。これではhealthどころか、illnessになってしまう。

石村友見『Life is Wellness 「健康な生き方」の科学』(サンマーク出版)

私は、この負のループを「アンウェルカム・ループ」と呼んでいる。

世の中に溢れる疾病しっぺい産業(病気に関連する産業)を中心とした「ヘルスケア」の情報やサービスは、意図して行っているわけではないとしても、結果的に、人々をアンウェルカム・ループに誘い込んでしまう。回し車をひたすら走り続けるハムスターと同じで、行き着く先には疲労感と自己嫌悪が待っている。

いつも自分に「足りない」ものを探し、「なりたくない」ものに怯え、「やりたくない」ものを衝動的に選び、「続けられない」ことで自分を責める。このアンウェルカム・ループから抜け出さない限り、幸せで穏やかな日々は訪れない。

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