物事を多面的に考えられる人は、賢くて優しい

一つの答えに固執することの危険性についてお話をしましたが、人や物事に、さまざまな要素や側面があるのだと理解することは、知性を高めるだけでなく、メンタルの面にも非常によい影響をもたらします。

私は精神科医として、長年「決めつけはうつ病のもと」と言っています。人は、「絶対にこうあるべきだ」という信念や思いが強すぎると、それが思い通りにならなかったときに、落ち込んだり、心が不安定になったりしやすいのです。

正しさで自分を縛るほどに、不機嫌さやストレスが生じ、生きづらくなっていきます。ですから、物事はなるべく多面的に考えるようにしたいものです。一つの答えで決着をつける必要などありません。自分の優位性にこだわる人ほど、この「うやむや」な状態を嫌うものです。けれど、「それもそうかもしれないね」「まあ、どっちでもいいよね」と柔軟にとらえ、時には受け流せるようなスタンスをとることは、結局のところ、自分が心地よく生きるためのすべであり、賢い知恵なのです。

それは人間関係においても同じです。相手に対して思い込みや偏見を一方的に持つほどに、対人面におけるストレスは肥大化していきます。

どのような人にも、素敵な面とダメな面があります。両方を持っているのが人間で、どちらかだけの人はいません。ですから、相手の素晴らしい面だけを見て過剰に称賛するのも、反対に、ダメな面だけに焦点を当てて非難するのも、どちらも決して頭のよい行動とは言えないと思います。

たとえば芸能人の不倫が報道されると、みなこぞって袋叩きにするでしょう。でもそこで、あえて世間の風潮に逆行し、その人のよい面を見つけてみたりする。そういった寛容さを持つことも、頭のよさの一つだと思います。

和田秀樹『脳と心が一瞬で整うシンプル習慣 60歳から頭はどんどんよくなる!』(飛鳥新社)

認知心理学の世界に、「メタ認知」という言葉があります。これは、自分が認知していることを、俯瞰の視点から認知するということです。

つまり、自分が何らかの考えを抱いたときは、その内容を客観視しながら、他の考え方はないかな? とか、自分の思いこみに縛られていないかな? などというふうに、自問自答する習慣をつけることが大切なのだと思います。

一つの見方に固執せず、いくつかの見方ができる人、つまり「認知的複雑性」が高い人は、考え方の違う相手のことも理解し、総合的な判断をすることができます。

さまざまな角度から物事をとらえ、「あの人にもこういう、いいところがある」「もしかしたら、こういう事情があったのかもしれない」という寛容さを持てる人は、人としてとても成熟していて優しく、知的だと思いませんか?

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