タテの交流がなければ学閥も存在しにくい

一方、トヨタは学閥も地域閥もない会社だ。世界中に工場やオフィスがあるグローバル企業だから、採用された学生が「早慶上理を出ました」と言っても、ケンタッキー工場や広州トヨタでは通用しない。

結局、学閥偏重はグローバル企業よりドメスティック企業に通用する価値でしかない。トヨタという会社はそのことをよくわかっている。彼らはとりたてて「学閥はない、地方閥もない」と主張しない。社員は学歴が価値とはならないとわかっているから外に対しても自らの卒業大学を言い出すことはない。

では社内に学閥がないこと、学園に専門部が存在することは、どこでつながってくるのか。

それは1年制の学校では学閥が存在しにくくなるからだ。

1年間の学校では同期生はいるけれど、在学中に先輩や後輩はいない。当たり前のことだけれど同期生同士の付き合いはあるものの、先輩、後輩との在学中の思い出はない。学閥ができていく素地とは同期生同士が固まるだけでなく、先輩、後輩の存在が影響してくる。

事実、専門部を出た人間はトヨタ社内で同期とは付き合うが、在学中に会ったこともない先輩、後輩と深く交流していることは少ない。1年だけの学校にはヨコの付き合いはあってもタテの交流はない。学閥を形成する土壌がない。1年制の教育機関にはそういう性質がある。

ITやAIに特化した専門教育機関を作るべきだ

わたしは学園専門部の取材を通して、卒業生たちは学歴偏重の社会の外にあることを知った。彼らは学歴、学閥から離れて自由に生活を楽しんでいる。彼らは工業高校卒業者として扱われるのではなく、トヨタ工業学園専門部を出た人として認識される。

一流大学として認められない大学を出た人たちは学園専門部と同じような1年制の専門教育機関へ進めばいいのではないか。もし、そういった教育機関があれば学園高等部と同じような役割を果たすに違いない。普通の大学出身者ではなく、1年制教育機関の出身者として遇されるからだ。

その教育機関で教える科目はIT、AIといった先端知識と先端技術。理科系、文科系を問わず、これからの社会人にとってもっとも必要な知識、技術だからだ。