誰が逃げていたのか?
ではMLB中継で、通常番組から逃げたのは誰だったのか。単なる視聴率の数字ではなく、性年齢別や特定層別のデータを分析すると状況が浮かび上がってくる。
この日の前5週平均で視聴率が高かったのは2番組。
日本テレビ系のバラエティ「ぶらり途中下車の旅」と、TBSの情報ワイドショー「王様のブランチ」だ。共に放送時間の全てがMLB中継と被り、個人全体では視聴者の3分の1を失っていた。
まず興味深いのはT層(男女13~19歳)。
女性はMLBに全く影響を受けていない。特に「王様のブランチ」はその日のネタや出演者によるのだろうが、前5週平均より1.4倍も高くなっていた。
一方、MT層(男性13~19歳)は極端だった。
同じ世代の女性とは正反対に両番組とも3分の2の視聴者が逃げ出し、その大半がMLBに熱中していた。性年齢別では、10代男子が最も視聴行動を変えていたのである。
MLBに注目する大人たち
他にも特筆すべき層があった。
普段の番組を離れMLBに走った特定層がいくつかあったのである。
1~3層(男女20~64歳)は極端には変化しなかった。
個人全体と同じレベルか、普段の番組にとどまる傾向が出ていた。ところが4層(男女65歳以上)は大きく動いた。
特に70~80代でその傾向が強く出た。
実はテレビ草創期、力道山が活躍したプロレス中継が極端に高い視聴率となった。戦争でやられたアメリカの大男を、体格で劣る日本人が空手チョップでなぎ倒す姿に溜飲を下げた人がたくさんいた。
今回の大谷が活躍するMLB中継では、体格でも劣らない日本人がMLBの記録を次々に塗り替えており、そんな姿に感慨もひとしおという高齢者が少なくないようだ。
特定層でも興味深い傾向があった。
Z世代やコア層(13~49歳)では顕著でなかったが、「スポーツ好き」「役員管理職」「国際問題に関心有」層が大きくMLB中継に吸い寄せられていた。
「スポーツ好き」層は野球の最高峰のゲームゆえ納得がいく。だが、「役員管理職」は意外である。「非管理職」より大きく変化しているのは年齢の問題もあるだろうが、独特の哲学でMLB最高峰に上り詰めた大谷の姿にしみじみするものがあったからではないだろうか。
また「国際問題に関心有」層も興味深い。大谷に限らず、近年のサッカー日本代表や五輪代表の若い日本人アスリートの活躍に、時代の変化を感じているのではないだろうか。この層独特の思いをもって視聴しているような気がする。