他方で、EU域内の事業者の中には、EUDRの発効を念頭にすでに対策に取り組んでいた企業も少なからず存在する。当然ながらそうした事業者からは、今回の欧州委員会の対応に対する不満の声が強く上がっている。一連のエピソードには、日本の事業者がEUでビジネスを行う上での教訓が含まれているので、簡単に事情を解説してみたい。

出所=ユーロスタット

EUDRの発効を念頭に対策をしていたEU域内の事業者は、EUDRに適合した原材料を確保するため、多額の割増金を生産者に支払っていた。EUDRが発効されていれば、域内の事業者は割増金のコストを食品類の価格に転嫁することができた。EUDRに適合した食品類の流通しか認められないなら、消費者もそれを受け入れるしかないからだ。

しかしEUDRの発効が延期となったことで、消費者も従来通りの食品類を引き続き購入できることになった。これでは環境意識の高い消費者以外、EUDRに適合させるためのコストを上乗せした食品類の購入など見込めない。そのため、EUDR対策を進めた事業者は割増金のコストを価格転嫁できず、そのコストを自ら負担せざるを得なくなる。

ロイターの報道によれば、例えばカカオ加工業者やチョコレートメーカーは、EUDRにて適合したカカオ豆を6%(1トン当たり300ポンド)高く購入していたとされる。原料であるカカオ豆の段階で6%であるから、最終的なチョコレート製品の価格は2割程度高くなるのではないか。こうしたコストを、事業者が負担することになるのである。

EVシフトの失敗にも共通

EUの規制が及ぶ範囲はあくまでEU域内であるが、域内にはEU域外の国籍の事業者も数多く存在する。そうしたEU域外の国籍の事業者も、EU域内で事業を行うためにはEUの規制に従わざるを得ない。そしてEU域外の国籍の事業者は、母国でもEUの規制を踏まえて事業を営むことになると期待される。これをブリュッセル効果という。

例えばEUは、2035年までに新車の全てを電気自動車(EV)に代表されるゼロエミッション車(ZEV)に限定するという規則を定めた。これを受けて、日本の完成車メーカーもEU市場でのZEV化を踏まえた対応を余儀なくされたわけだが、同時にこうした流れが、日本の完成車メーカーのEVシフトを外圧面から促した面もあったのである。