GPIFは年金の運用開始以来、累計で約154兆円の黒字

高齢者に給付されている年金の総額は、58兆円です。

この財源は、40.9兆円が公的年金の加入者(第1号、第2号被保険者)の年金保険料です。およそ4分の3ですね。4分の1の13.7兆円が国庫負担、つまり税金からの拠出になります。

これだけでは足りないので、残りの3.4兆円は、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の積立金から取り崩しています。GPIFとは、簡単に言うと年金の積立金を運用しているところです。

「毎年3.4兆円も取り崩したら、そのうち底をついてしまうんじゃない?」「GPIFの運用はうまくいっていないのでは?」

心配する声も聞こえますが、大丈夫です。

かつて、GPIFの運用がうまくいっていないというニュースが何度か流れました。そのため、運用状況が悪いままだという印象を持っている人が多いのですが、これは誤解です。不調なときだけニュースに取り上げられるのであって、実際はプラスの運用ができています。

2023年度は、なんと約45兆円の収益が出ています。運用開始以来の累計では約154兆円の黒字です。運用開始以来で見ると、年率約4%の運用成績を上げています。

取り崩しはしていますが、運用が上回っているため元本は減っていません。現在の運用資産額は約246兆円です。

この運用資産額は、年金財政の中の1割です。全部を運用しているわけではありません。そこについても誤解が多いようです。

ですので、現状では年金破綻は心配はいらないでしょう。

70歳まで働いている人は全体の17%以上

「現状では大丈夫なことはわかった。でも、この先少子高齢化で、高齢者はドンドン増えていく。それでも年金制度は続けていけるの?」

少子高齢化はたしかに心配でしょう。

2023年、人口に占める65歳以上の高齢者の割合は29.1%です。2040年には、34.8%になる見込みです。

しかし、このままずっと高齢者が増え続けることはありません。団塊ジュニアが高齢者になる2040年までは上昇していきますが、それ以降は横ばいが続くと予測されています。

とはいえ、現役世代が減っていく中で、増加する高齢者を支え切れるのでしょうか。

1980年には騎馬戦型で支えていたスタイルが、2010年には神輿みこし型になり、2040年には肩車、つまり1人の高齢者を1人の現役世代が支えるようになる。年金制度は、よくこんな説明がされます。

ここで使われる数字は、分母が20歳から64歳までの人口、分子が65歳以上の人口です。

ですが、単純に人口で割った数字なので、実態とは少し違ってきます。分母は本来、就業者の数になるべきです。なぜなら第3号被保険者は保険料を払っておらず、また、いまや65歳以降も多くの人が働いているからです。

分母を就業者、分子を非就業者に変えると、ほぼ肩車の図式が何年もずっと続いてきていることがわかります。

長尾義弘『投資ゼロで老後資金をつくる』(青春出版社)

高齢者は増えているものの、昔に比べて女性の労働参加が急激に増えました。専業主婦の割合は共働き家庭の2倍でしたが、いまでは逆転して共働き世帯が専業主婦の2倍以上になっています。

また、60歳が定年でも、ほとんどの人が65歳まで働いていますし、70歳まで働いている人は全体の17%以上います。高齢者の労働参加も増えているのです。

この先も、少子高齢化によって、すぐに年金制度が崩壊するとは考えにくいと言えるでしょう。

年金制度は、5年に1回財政検証が行われ、その都度見直されています。

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