「敵に勝つ」のが目的ではない!

【横田】 私は今回、「諦めない」という表現を使いましたが、別の言い回しでは「のめり込む」ということができます。お客さまといかに深く、長い期間にわたり接点を持ち続けていけるかということがテーマです。そこでお聞きしたいのですが、営業マンが顧客との強いパートナーシップを築くことは、貴社の事業全体に対してどのような好影響をもたらしますか。

【泉谷】 まず小売店との関係を見てみましょう。消費者との間をつなぎ、私たちの売り上げを実質的に最初に決めているのは小売店です。お店の方と気持ちが通い合っているかどうかで結果は大きく違います。

一方、流通などのお得意さまとは、共同開発者であるべきだと思います。われわれは商品やサービス、新しい市場を一緒につくる共同開発者なんだ。そういう思いがなければ、仕事がドラマチックにならないですよ。ドラマチックな仕事ができれば、結果として売り上げ増に結びつきます。

最初に「売り上げが欲しい」がきてはいけません。この決定は誰が喜ぶのか、誰が満足してくれるのかということを考えます。それを共有化することができれば、そこに新しいパートナーシップが生まれます。そしてパートナーが生み出す何かにつながることで、成功体験を共有でき、パートナーシップはさらに強まるのです。

【横田】 ビール類という成熟市場で戦っている以上、どうしてもライバルメーカーとのパイの奪い合いになりますね。パートナーをはさんで競合との戦いになるわけですが、営業の現場はどう考えて動くべきですか。

【泉谷】 おっしゃるとおりの時代ですから、お互い経営資源をいかに効率化するかということが大事です。その意味では、競争と協調をどう組み合わせていくかが問われます。

私はやはり、競争には勝負の面と学びの面とがあると思います。ライバルを競争相手としか見ないのでは、お互いに成長しません。敵を鑑として見ることもできるし、反面教師とすることもできるでしょう。相手から学ぶという姿勢が大事です。

お客さまだけではなく敵に対しても謙虚でなければいけません。もちろん勝負ですから、それだけではなく傲慢なところも必要ですよ。

ただ、忘れてはいけないのは、われわれの目的は敵と戦うことや敵に打ち勝つことではない、ということです。根幹の仕事は、あくまでもお客さまとの満足関係を高めることです。結果として勝ち負けがつきますが、敵だけを意識しているとお客さまが見えなくなってしまう。それだけは避けなければいけません。