飲食店の「次回のご来店でワンドリンク無料」も、集客効果を狙っている。会計の際にそう書かれたクーポンを渡されたとしよう。人は手元に「半額になる」と書かれたクーポンがあると、なかなか無視できない。それを使わないのはもったいないからだ。

半額ですらそうなのに、無料で差し上げますと言われてきっぱり断れるだろうか。しかも、有効期限が書いてあり、どんどんカウントダウンが始まる。無料の誘惑に負けて再度店に行くか、それとも強い気持ちで目を背けるか……。どっちにしても店側には何の損もない。たとえビール一杯500円程度をサービスしたとしても、料理を頼んでもらえばその数倍の売り上げは確保できるのだから。

無料を得るために、余計なお金を払うことほど空しいことはない。しかし、なぜか私たちはその間違いを犯してしまう。それほどに無料という二文字の輝きは眩しい。

わかっているのに引っかかる「初月無料」「初年度無料」

人間には現状維持バイアスというものがある。自分の今の環境をなるべく変えたくないと思ってしまう心理だ。変化はリスクを伴う。現在のまあまあ快適な暮らしが、変えることで不便になったりストレスがかかることを恐れるからだ。

変えたほうがメリットがあるかもしれない、でも踏み切れないという人は多いもの。逆に言えば、売り手は自社のサービスを消費者が生活に取り入れてくれさえすれば、そのまま継続してくれるのではと期待する。

その「最初の一歩」によく使われるのが「初月は利用料無料」「初年度は年会費無料」という、いわば入り口は無料にするという手法だ。

携帯キャリアが契約者に対しAmazonプライムやYouTubeプレミアムの1年無料サービスを行ったことがあったが、これも巧妙だ。もちろん無料期間が終わった時点で解約することは可能だが、これまで使えたサービスが使えなくなると思うと惜しくなる。

すでに日常になっていた快適さを失いたくないと感じてしまうもの。最初から「1年たったら解約すればいい」と思っていたとしてもだ。最初から分かっていたはずなのに、まんまと引っかかり、翌年も自動継続してしまう人は少なくないはずだ。

やっかいなのは、月額課金サービスの場合「入りは簡単、出口は大変」になっていることも多い。加入するときは親切なのに、解約の手続きが分かりにくいとか、なかなか解約までたどり着かないとか、クレームになることも多いと聞く。現状維持バイアスに逆らうのが難しい人や、面倒くさがりの人は、最初から「入口無料」のサービスには近づかない方が無難だ。

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