お金を貯めるにはどうすればいいのか。消費経済ジャーナリストの松崎のり子さんは「安さとはただの錯覚だ。客の金銭感覚をバグらせる“お得感”には注意してほしい」という――。
買い物をする女性
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「お得感」のある数字の罠

お金をムダにしたくない人ほど、価格にシビアになるものだ。それは単に安い価格のモノを選ぶことではない。そのモノやサービスにつけられた値札を見て、その金額を払う価値があるかをまず考える。もちろん、高ければ買わないし、安いと感じればお買い得だ。それが瞬時にできる人は、買い物で失敗はしない。

ところが、自分の見ている値札の数字が「絶対値」ではなく、伸び縮みするとしたらどうだろう。私たちの「高い・安い」は、ただ錯覚によって操られているだけだとすれば。

特に高額品を買う時、しばしば厄介な錯覚を経験する。ブランドショップに入る前、何気なくショーウインドウの品物が目に入ったとしよう。その値札が曲者だ。

500万円の高級時計を最初に見た後に、店内を見渡したら150万円の時計があった。「結構安い時計も扱っているじゃないか」と感じてしまうだろう。最初の金額が、店の基準として意識されるからだ。では、最初のウインドウに100万円の時計があったとしたら。

価格は同じ150万円でも、印象はまるで逆になる。安いと感じるか、手が出ない高い価格と感じるか、それは錯覚により左右されてしまう。

最初にどの金額を見せるかで、「高い・安い」の印象が変わるとすれば、販売する側はまず高めの金額を見せておくことで、本当に売りたい価格帯の商品を割安に感じてもらえるだろう。

また、その金額を払える客だけを呼び込める。消費者側もハッピーだ、とてもお得な買い物ができたとご満悦だろうから。

「30%オフより50%オフのほうが安い」は本当か

値引きも曲者だ。セールの時期になると目に入る「○%」という数字。我々は、この商品がセールでいくらになったのかより、いくら安くなったかの方に目がいくものだ。30%オフと50%オフが並んでいたら、まず50%オフの商品に惹きつけられる。

売る側の方も心得ていて、割引率の方を大きく強調する。すると、たまに不思議なことが起きる。定価6000円の商品Aと、定価1万円の商品Bがあったとしよう。機能的にはAで十分だと思っていたのだが、セールになってみたらAは30%オフ、Bは50%オフの割引になっていた。

どちらに魅力を感じるかと言えば、やはり50%オフだ。半額で買えるのだからとびきりのお買い得品に思えるからだ。

しかし、計算すればわかるように、商品Aは30%オフで4200円になり、商品Bは50%オフだと5000円だ。もともと買おうと思っていたAの方が割引後の価格が安いのだから、こっちを買うのが一番安く済むのだが、なぜか50%オフのBに手が伸びる。