マンション価格を見続けて起きるバグ

価格帯による錯覚も厄介だ。金銭感覚をバグらせてしまうからだ。よくあるのは不動産の取引、例えばマンション価格を見ているうちに起きる現象だ。

買い手は5500万円の予算で探していたとする。もちろんそれ以下で買えれば安く済む。しかし、物件をあれこれ見ているうちに5800万円の物件が気になってきた。立地も設備もこっちのほうが魅力的だ。こちらでもいいんじゃないか、5500万円も5800万円もあまり変わらないし――。

いや、変わる。300万円は大金だ。どんなに食費を節約しても、この金額を貯めるのは大変なこと。しかし、数千万という単位を見ているうちに、100万円が1000円くらいの金銭感覚になってくる。価格比較のベースラインが、気が付かないうちに上がってしまうのだ。

おまけに副作用もある。大きなお金を使った後は引き締めようと考えそうなものだが、これも逆になってくる。よく、数百万円の新車を買った後ではカーナビやアクセサリーの数万円が安く見えて、価格をよく吟味することなく気軽に買ってしまうと聞く。普段は、ランチに1000円以上も出すなんて贅沢じゃないかと悩んでいるのにだ。

普段買わないような高額品を購入したあとは、まっすぐ家に帰ることをお勧めする。間違っても、寄り道して他の店を覗いたりしてはいけない。

アンカリングをリセットする方法

金額が絶対の数字ではなく、錯覚によっていかようにも印象が変わることは、なんとなくわかっていただけただろう。普段からよく買っている食品や飲料なら大体の相場は頭に入っているので、高い安いのジャッジは大きく間違えずにすむ。

問題は、めったに買わない高額品だ。モヤシ一袋50円と20円は大きな違いに感じるが、マンション価格の5500万円と5200万円はそこまでの差でないように思ってしまう。モヤシの50円は高すぎて買いたくないが、マンションなら5500万円を選んでしまう。モヤシの方がよっぽど安いのに!

スーパーの野菜売り場で商品を選ぶ男性
写真=iStock.com/Yagi-Studio
※写真はイメージです

また、安いと感じて選んだ商品が、アンカリングによる錯覚でそう思わされているだけかもしれないことも大いにある。臨時収入が入ったから、記念日だからと、普段よりもちょっといいものを買おうとした時にこそ気を付けたほうがいい。

買う前には、必ず相場を調べておくこと、払っていい金額を割り出し、予算を決めること。割引率ではなく、割引後の金額を先に見ておくこと。そして、結論が出なければ、一度家に帰ること。ネットショッピングならいったん画面から離れて翌日まで待つ、オークションなら類似商品を検索してその価格を見る。意識を別の方向に向けることで、アンカリングから解放されるだろう。