お金を貯めるにはどうすればいいのか。消費経済ジャーナリストの松崎のり子さんは「ムダな買い物をしてはいけない。たとえば本当のお金持ちは『100円ショップに行っても、1点だけ買う』ということができる」という――。
日本の100円硬貨
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年間1人当たり1万円弱を「100円グッズ」に使っている

民間調査会社・帝国データバンクによると、「100均」市場が初の1兆円を突破したという。

2023年度の売上高は約1兆200億円の見込みで、日本の総人口は1億2429万人ほどだから、全国民が一人当たり1万円弱の100円グッズを買っていることになる。背景にあるのは、物価高による節約志向だ。

100円ショップは安さの代名詞、ここに行けば何でも安く買える。いや買う予定がなくても、安いものがないかとなんとなく店を覗いてしまう。節約好きをぐいぐい引き寄せるワンダーランドだが、安い、いや甘い蜜にはご用心。そこには、消費者の心をそそる、巧みな罠が張り巡らされているのだ。

あなたが節約目的で100円ショップに通っているのにちっともお金が貯まらないと感じているなら、次のような罠にはまっているからに違いない。

「全部100円」で思考が停止する

【100円ショップの罠①】「どれでも100円」が誘う思考停止パワー

買い物とは骨が折れるものだ。特にこの物価高の世の中、1円でも安く買いたいのが人情で、我々は値札を見ては一喜一憂する。モヤシ30円はまあ妥当だろうが、キャベツひと球300円は高すぎだ。980円のAランチと1050円のBランチ、この内容に見合う価格はどっちだろう。

このように、我々は常にモノやサービスの価値とつけられた価格が妥当かどうか、代金を払う前にジャッジしている。これが、我々が暮らす資本主義の世界だ。

そんなややこしいことを考えずにポンポン買えれば、いかに楽か。それを考えたのが、100円ショップ「ダイソー」創業者の故・矢野博丈氏。多くの商品を扱う中、別々の値段を付けるのが面倒で、思わず客に「全部100円でいい」と言ってしまったところから100円均一が始まったとの逸話がある。

売る側は商品に値札をつける手間が省けるし、レジ作業も売り上げ計算も楽になる。お客も、いちいち「これは高い? 安い?」をジャッジしなくてよくなった。しかし、これが第一の罠だった。

矢野氏がそこまで狙ったかはともかく、「全部100円」と聞いた客は、いちいち悩まずにポンポン商品をレジかごに入れるようになる。高いか安いかを判断することなく、嬉々として。買う気がなかった余計なものまで気楽に買ってしまうのは、この思考停止パワーが効いているからだ。

その結果、いざレジで合計金額を聞いた時に、「えっ、そんなに買ったっけ?」とビックリすることになる。1兆円市場を支えているのは、節約のつもりで100円ショップに行っては買い過ぎてしまう人々というわけだ。