航空機衝突事故を防ぐための「滑走路衝突回避システム」

管制官の業務は複雑化しています。今の世の中、管制官という職務も例外なくデジタル技術の活用が要請されているところであり、DX(デジタルトランスフォーメーション)、あるいはAI(人工知能)の導入への、まさに過渡期にあるといえるのかもしれません。

すでに一部で実用化されている技術に「リモートタワー」と呼ばれる管制システムがあります。カメラが捉えた空港や飛行機の映像を目の前の大型モニターに映しながら、遠隔で指示を出します。このシステムのメリットは、画面上の実際の映像にリンクして文字情報を表示してくれることで、情報を画面内だけに集約できることです。

ただし、まだ足りないものがあるとすれば、それは「半ば強制的にゴーアラウンド(着陸復行)する仕組み」です。このまま降りたら危ないという状況になったら、管制官が着陸を許可していたとしても、自動的に着陸を取りやめて上昇させられてしまう、それが「滑走路衝突回避システム」です。

羽田空港航空機衝突事故を防げたとしたら…

2024(令和6)年1月2日の羽田空港航空機衝突事故では、到着機(日本航空)のパイロットも、管制官も、滑走路上にいる海上保安庁機に気がつくことができませんでした。では、進入した海保機を責めるべきかというと、私はそうは思いません。間違いは当然あるものとして想定しておかなければならないのです。

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ポイントは、海保機が進入してしまったあとに、本来なら気づけたであろう2者(パイロットと管制官)が気づけなかったことです。しかし、ここにもやはり限界があると思います。時間は夜、しかも相手は小型機です。羽田で起きた事故を防ぐならば、管制官の許可を上回る権限でパイロットが(*自動的に発信される警告と回避指示に基づいて)ゴーアラウンドするしかない、というのが私の見解です。

「滑走路衝突回避システム」は、まだ技術的にクリアしなければいけないことが多く、実現に至っていません。実現するためには、たとえば、滑走路脇に高精度なFOD(Foreign Object Debris)レーダーの設置が必要です。もしくはADS-B(Automatic Dependent Surveillance-Broadcast/航空機がGPSで取得した情報を定期的に地上受信機に対して送信するシステム)の機能を高度化し、管制システム、コクピットの装置とリンクさせることも考えられます。実現すれば、最強の管制システムとなるでしょう。

※「*」がついた注および補足はダイジェスト作成者によるもの