着陸待ちの飛行機が上空で“ミルフィーユ状態”に

空港周辺の空域は、着陸に向かう飛行機で混雑します。進入管制は、これらの機が適切なタイミングで滑走路に降りることができるように導きます。そのため、速度や高度、あるいはルートなどを指示しながら、飛行機同士の間隔を調整しています。職人レベルの技量が求められる仕事なのです。原則は「1つの滑走路上に、同時に2機の飛行機がいてはならない」というものですが、理想をいえば「常に1機いる」状態をつくり出すことが目的です。ところが、予想外の悪天候が発生すると、飛行機が、天候回復とともにいっせいに動き出して、急にピークが来ることもあります。

そんなときは、レーダー管制の指示で、各機に上空で待機してもらいます。待機する飛行機を増やさなければならない場合は、先に旋回している飛行機の上へ上へと“重ねて”いきます。1機が旋回待機していたら、次に待機する機はその約300メートル上に……というように、着陸待ちの飛行機で層をつくる“ミルフィーユ状態”になります。

まず一番下の高度にいる飛行機を滑走路に誘導し、同時にその上の飛行機に一段階、高度を下げるように指示……というように、順繰りに降下させていきます。あえて、降下させずに1機分の隙間をつくっておき、待機が不要な飛行機を先に通過させることもあります。もう、3次元パズルそのものです。

飛行機
写真=iStock.com/T-Fujishima
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パイロットが指示をほしがるタイミングを予測して交信

管制は、「声だけが頼りで相手の状態が見えない」というところがポイントです。パイロットの仕事をよく知っている管制官であれば、パイロットが今このときに、どんな作業や機内でのやりとりを行なっているかを理解しているので、適切なタイミングを図って交信することができます。

たとえば、これから出発する飛行機は、管制官から指示をもらって走行を開始しますが、この段階で、パイロットは機体各部の稼働確認を行ないます。このときに、管制官が無線で話しかけても聞き取れない可能性が高いでしょう。

常に「その指示、情報はパイロットの作業やコクピット内のやりとりを止めてまで話すような緊急性の高いものなのか」を考えながら交信する、ということも管制官の技術の1つです。では、どうしたらそれがわかるのか。基本は「相手の立場に身を置いてみる」ということに尽きます。

複数のパイロットと同時に交信するとき、管制官が心がけておくべきなのは、誰がどのタイミングで指示をほしがるのかを先回りして予測するというテクニックです。パイロットにしてみれば、ほしいと思ったときにきちんと指示がくれば、管制官への信頼につながります。