「状況証拠」はあっても、物的証拠が見つかっていない

また、和歌山地裁で第5回公判が9月24日に行われ、「当時の捜査にかかわった県警の警察官が証人として出廷し、野崎さん宅の多くの場所から微量の覚醒剤成分が検出されていたことを明らかにした」(毎日新聞電子版9月24日 20:59)そうである。

同じ警察官なのだろう、FNNプライムオンライン(9月24日18:20)によると、「野崎さんの自宅にあったシャツや歯ブラシから覚醒剤の反応が出た」と証言した。

また、東京都内の須藤被告の自宅にあったサングラスやハイヒールなどからも覚醒剤の反応が出たということだ。

さらに、検察側は証人尋問でメールの記録などから野崎さんに日常的な覚醒剤の使用の疑いがなかったことを明らかにしたという。

2人だけの密室。動機は数十億円ともいわれる資産欲しさ。すべての「状況証拠」は、犯人が須藤早貴だということを指し示しているようだが、犯行に使用されたといわれる覚醒剤は発見されていない。

事件から3年がたった2021年4月、殺人罪などの容疑で須藤は逮捕・起訴された。

取り調べは苛烈を極めたと想像するが、須藤被告は黙秘または犯行を否認しているのであろう、悪名高い「人質司法」によって5年以上拘禁され、保釈は認められていない。

元週刊誌編集長の記憶に残る「保険金殺人事件」

裁判員裁判だからだろうが、公判はたびたび開かれ、12月12日には和歌山地裁で判決が出るといわれているが、拙速にすぎるのではないか。

しかも、“証拠の王様”である自白はなく、確たる直接証拠もないまま、状況証拠だけで有罪にできるものなのだろうか?

推理小説なら、2人だけの密室で起きた殺人事件で、犯人と思われる人間には十分な動機があった場合、真犯人はその人間ではないのが「お約束」である。

ところで、本件とは離れるが、私がこれまで見てきた殺人事件について記してみたい。

1974年、私が新米編集者のときに大分県別府市で起きた殺人事件は、保険金殺人の嚆矢こうしといわれるものであった。

11月17日、フェリーの岸壁から親子4人が乗った乗用車が海に転落した。妻と子供2人は亡くなったが、夫の荒木虎美氏は沈んでいく車からかろうじて抜け出して生き残った。

哀しみに暮れる夫の姿は多くのメディアで報じられ、どのようにして沈んでいく車から脱出できたのか(事故当時、荒木氏は自分は助手席にいたと主張)、再現ドラマを放送するワイドショーがあったと記憶している。

だが、荒木氏が事故直前に妻や子供たちに約3億円という莫大な保険金を掛けていたことが判明することで、事態は急転した。