裁判所はお笑いパフォーマンスの場か
爆笑問題・太田光は自分の名誉棄損裁判で勝つことよりも、東京地裁の小法廷を、お笑いパフォーマンスの場にしたかったようだ。
10月1日午前10時。私は地下鉄丸の内線「霞ヶ関駅」A1出口を出て、霞が関の東京地方裁判所の前にいた。
週刊新潮が2018年8月16・23日号で、太田が日本大学芸術学部に入学できたのは、太田の父親が800万円払って裏口入学させたからだと報じた。
30余年も前のことなのに、描写は微に入り細を穿っていた。だが、当然ながら“お笑い界の帝王”とまでいわれる太田の怒りは怒髪天を衝いた。
自分の番組で「週刊新潮、バカヤロー、この野郎。裏口入学するわけねーだろう」と連呼し、ついでに、その記事を当欄で紹介した私にも、「元フライデー編集長・元木昌彦、反論ねぇのか、言論人としてどうなんだ」と吠えた。
記事が出た後、太田は「法的手段も辞さない」とメディアに公言し、事実、名誉を棄損されたとして、新潮に対して約3300万円の損害賠償と謝罪広告を求めて東京地裁に提訴したのである。
新潮側は次の号で、太田の怒り方はあまりに大人げないとする記事を掲載したが、裏口入学についての新しい事実は示さなかった。
正直私は、いつもなら二の矢三の矢を放ってくる新潮が、今回はやや腰が引けている感じがした。
あの「大誤報」の二の舞になるかもしれない
“帝王”太田の威光の前に恐れをなしたのではないか。もしかすると、2009年2月5日号から4回にわたり連載した、朝日新聞阪神支局襲撃事件の真犯人だと自称する男の手記が、週刊誌史上に残る「大誤報」になったが、その二の舞になるかもしれないと危惧したのである。
それから2年以上が経った。9月初めに、太田が名誉棄損裁判で自ら法廷に立つという報道があった。不覚にも、とうに和解していると思っていた。
早速、新潮社の友人に、この件についてどうなっているのかを聞いてみた。友人曰く、裁判所側からの和解勧告があったが、双方ともそれを蹴ったため、裁判で決着をつけることになったという。
“帝王”自らが東京地裁に降臨するというのだから、週刊新潮に決定的ダメージを与える発言をするに違いない。もしかすると2年前の新潮45休刊のように、週刊新潮休刊という最悪の事態もあるかもしれない。
これは自分の目と耳で見ておかねばと、眠い目をこすり、地裁前にたどり着いたのである。前日ネットで調べると傍聴券は抽選で、締め切りは11時、開廷は13時半からだった。