子猫たちは“餌”になってしまった

すべて近親交配だったため、卸売業者には1匹あたり1万~2万円程度に買いたたかれた。それでも年に3度のペースで繁殖させ、その都度あわせて20匹以上も産まれるので、それなりの収入にはなった。

ペットショップの店頭で、自分が繁殖させた子猫を見かけることもあった。

「1匹数万で売った猫が、ペットショップの店頭では十数万円で売られていた。店頭に並ぶ子猫の姿を見ると、胸が痛みました」

写真=iStock.com/DanBrandenburg
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13年に入って体調を崩し、廃業せざるを得なくなった。でも猫たちは手元に残り、管理が行き届かないまま増え続けた。糞尿の片付けも追いつかず、自宅のなかは強いアンモニア臭が充満するようになった。

追い込まれ、最終的に動物愛護団体に助けを求めた。

「最大40匹くらい抱えてしまい、エサが足りなかったのか、成猫に食べられてしまう子猫もいました。猫たちはもちろん自分も家族も、誰も幸せにはなれませんでした。せめて、買われていった子猫たちは幸せになっていると信じたいです」

女性は、後悔していると言いつつ、最後にこう付け加えた。

「でも、知人のブリーダーのなかには、公団住宅の1室に40匹くらい抱えていたり、6畳2間のマンションで繁殖させていたり、うちよりひどい状況のところもあるんですよ」

猫市場は約2.5兆円規模

ペットビジネスにおいて猫は、平成の半ばに入って存在感を増し始めた。

一般社団法人「ペットフード協会」の推計によると、2000年には771万8千匹だった猫の飼育数はじわじわと増え続け、14年に842万5千匹となってついに犬(820万匹)を逆転した。23年時点では犬が推計684万4千匹なのに対し、猫は推計906万9千匹に達している。

背景には、2000年代半ばから始まった猫ブームがある。

辰巳出版が発行する猫専門誌『猫びより』の宮田玲子編集長は、「00年代半ば以降、個人ブログ出身の人気猫などが登場し、猫の性格や動作が多くの人の共感を呼ぶようになった。SNS上などでは、犬よりも猫のほうが、より幅広い層からの共感を集める」と分析している。

ツイッター(現X)や動画投稿サイトなどが主流になっても、猫人気は継続。そこから発展して写真集、映画、CMに猫が次々と取り上げられた。「ネコノミクス」という造語も登場し、関西大学の宮本勝浩名誉教授(理論経済学)の試算によればその経済効果は24年、約2兆4941億円にのぼるという。21年の東京五輪・パラリンピックの経済効果は約6兆円1442億円という試算だったから、猫が生み出す「富」の大きさがわかる。