「いつからゴミ屋敷になったか」は賞味期限でわかる

この数日後に田中さんは父親を連れて認知症外来へと行くのですが、そこで医師は「どうしてここまで放っておいたの!」と強く言ったそうです。しかし彼女は母親のせいにはせず「すみません」とだけ返したそうです。

下された診断は、アルツハイマー型認知症でした。

もともとゴミ屋敷ではなかった場合、ゴミ屋敷化し始めた時期がわかることがあります。食品の賞味期限などが、ある一時期に集中し、明らかに食品の管理が行き届かなくなっている形跡があるからです。あくまでも推測なのですが、やはり田中さんの父親は3〜5年前くらいから認知症の初期症状が出始めたのでしょう。

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これが、認知症の発症という「出来事」をきっかけとしたゴミ屋敷問題の特徴です。

しかし通常は、同居している家族がいれば発症に気づき、かつ生活環境がここまで乱れることはありません。もちろん、それを支える家族には苦労が伴いますが、認知症者をネグレクト(放置)することは絶対にありません。家族が家族を支えるという「あたりまえ」の機能があるからです。

父親の認知症発症で家事が回らなくなった

父親の認知症の発症はショックだったのは間違いないでしょう。そんな田中さんの気持ちは、母親へと向かいます。

「母は何をやっていたんですか? どうして、父があんなになるまで放っておけるんですか? 母は父のことを面倒くさがっていました。世話してあげるとかの感覚がまったくないんです。病院に連れて行ったのも、私だったし……。

病院から帰って、父が認知症だと診断されたと母に伝えると『やっぱりね、ほら見なさいよ』って。その瞬間『あぁ、この人はダメなんだな、人のことを考えられない人なんだ、なんにも気づくことができないんだ』と心底思いました」

私は専門家としての意見を伝えました。

「おそらくはお父さんがずっとお母さんの能力を補っていたのでしょう。だけど、お父さんの発症を機に家のことができなくなったので、ゴミ屋敷化してしまったのだと思います。

お母さんが生活できていたのは、お父さんの支えによるものが大きかったのでしょうね。そしておっしゃる通りで、悪く言って申し訳ないのですが、お母さんには共感不全がありそうですね」

「父と母と私の3人で暮らしていたころは、私も母の『対処』をしていたと思います。母の機嫌をとったり、父と言い合いをして泣いている母のことを慰めたり。母は自分では掃除ができないくせに、私には掃除をしろと怒ってくることがよくありました。母は父に『子どもの環境を考えてちゃんと掃除をしろ』と言われていたので、それが気に食わなくて、そのまま私に言ったんだと思います。

母の機嫌が悪くならないように私も母の言うことを聞いていましたし、いつからか父もあまり母にはうるさく言わなくなったように思います。

父のこともあまり好きではなかったけれど、父のおかげで家がまわっていた部分もあったのかと思うと、なんだか複雑な気持ちになります」