隣家がごみ屋敷で害虫や悪臭に悩む場合、法的な対処法はあるのか。弁護士の森田雅也さんは「ごみ屋敷に立ち入って、ごみを勝手に捨てることはできない。まずは自治体に相談するといい。ごみ屋敷に対処できる条例を制定している自治体もある」という――。
たくさん積まれた黒いゴミ袋
写真=iStock.com/Asobinin
※写真はイメージです

ごみ屋敷のごみを勝手に捨てることはできない

1 ごみ屋敷の弊害

自宅の隣家がごみ屋敷だったとすると、害虫やねずみが出てくるような場合や悪臭が発生している場合もあり、自宅の住環境にとって望ましくない悪影響が生じている場合もあるでしょう。

ただ、周りからすれば単なるごみに見えるかもしれませんが、本当に価値がないものかどうかは、そのごみの所有者でなければ判断できず、法律上の根拠もなく、ごみ屋敷に立ち入って、ごみを勝手に捨てたりすることはできません。このような行為をすると、場合によっては、刑法上の住居不法侵入罪(刑法130条)や器物損壊罪(刑法261条)に該当してしまう可能性があります。では、ごみ屋敷の隣地所有者としては、どのような対策をとれるでしょうか。以下では、とりうる対策等について詳しく説明していきます。

自治体にごみ屋敷に対処できる条例があるとは限らない

2 対策

ごみ屋敷の隣地所有者がとりうる対策の一つに、行政に相談するという方法があります。相談先の行政は、ごみ屋敷がある場所を管轄する自治体です。行政に相談する場合には、大まかに2つの方法でごみ屋敷対策をすることになります。

1つは、いわゆるごみ屋敷対策条例などと呼ばれる条例が制定されている場合において、その条例と行政代執行法によってごみ屋敷に対処する方法です。例えば、足立区には「足立区生活環境の保全に関する条例」があり、これによってごみ屋敷に対処していくことになります。しかし、すべての自治体にこのような条例があるわけではありません。そこで、もう1つの方法として、自治体が、ごみ屋敷の所有者などに直接話をして、ごみ屋敷の解消をするよう指導するというものがあります。ただし、後者の方法は、基本的には、あくまでも話し合いという形で行われるため、何らかの強制力があるわけではありません。

以下では、ごみ屋敷対策条例及び行政代執行の方法による対策方法について説明します。

行政代執行とは、ある義務を負う人が、その義務を履行しない場合において、行政がその義務者に代わって義務を履行するという手続です。つまり、ごみ屋敷を片付ける義務を負う人がいる場合には、行政代執行によって、行政がそのごみを片付ける義務を履行して、ごみ屋敷を解決することができるというわけです。

しかしながら、ごみ屋敷を片付けなければならないといった明確な義務は法律上存在していません。そのため、行政代執行を行う前提となる、ごみ屋敷を片付ける義務を負わせるような根拠を作る必要があるのです。そこで、足立区は2012(平成24)年10月にごみ屋敷対策条例を定めて(2013(平成25)年1月1日施行)、住宅の不良な状態を解消する義務を定め、ごみ屋敷に対する行政代執行を可能にしました。足立区の条例制定をきっかけに新宿区や大阪、さらには全国的にも徐々にごみ屋敷対策条例が広まっていきました。