「今、柳川もインバウンドが増えています。何十万円という旅費をかけてここまで来ている人たちは、入館料が700円から1000円になっても払いますよね。いや、1000円が3000円になっても、もう二度と来るチャンスはないかもしれないと思って入るはず。私たちが御花を運営している意義は、この文化財を100年後にも残すこと。そのためにきちんと収益構造を作っていかなければならないのです。文化財は高くて当たり前という認識が大切。日本からこの景色がなくなったらどうするんですか。私たちだけでなく、皆でいろいろな文化財を守っていかないと」
今でこそ堂々と話せる立花社長だが、かつては自分たちも文化財の価値を下げてしまっていたのかもしれない。そのことに対しての自戒が込められている。
クレームに戦々恐々としていたら…
意識や行動を変えたことによってどのような成果が出たのか。コロナ禍前の2018年比で御花全体の収益は約7割にまで回復。ただ、その内訳は大きく異なるという。例えば、入館料の平均単価は380円から990円になるなど、利益率は向上した。
他方、値上げすることで来場者からのクレームがあるのではと戦々恐々とした。しかし、結果は真逆だった。
「今までは本当にクレームが多くて。500円あるいは700円のとき、団体客はそれよりもさらに安くしているわけですが、史料館の見学時間が20分しかなかったなどと散々言われました。でも、1000円に値上げしたら、見学目的の人しか来なくなったし、滞在時間も長くなりました。クレームはほぼなくなりましたね」
言葉を選ばずにいえば、安い価格だと顧客の低質化にもつながるが、一定の価格以上にすれば上質な客が集まりやすくなるということだろう。
社員のマインドが変わり始めた
実際、顧客満足度は向上した。加えて、来場者の滞在時間が延びたことで、御花は「うなぎ屋」ではなく「大名屋敷」だという認知がなされるようになった。立花社長はこのことが嬉しかった。
そしてこの変革は御花の社員のマインドも変えていった。立花社長が一番驚いたのが、条件などが合わなければ観光客の受け入れを断るケースも見られるようになったことだ。
「これまでは『次の行程があって時間がないから見学料を払わない』と言われたら、営業マンの采配で安くしていました。でも、現在は多くの社員が『お時間がないのですか。では、今度お時間ができた時にお越しください』などと強い意思を持って答えています。私以上に皆が御花の価値の大きさを言うようになりました」