来場者が急減、そしてコロナ禍に…

事業に陰りが見え始めたのは2017年ごろ。立花家史料館および庭園の客数が急減したのだ。

同史料館などを運営する公益財団法人立花財団の資料によると、第1期(13年12月~14年11月)の入場者数は15万5173人だったのに対し、第5期(17年12月~18年11月)は11万9540人、第6期(18年12月~19年11月)は9万3910人と減少を続けた。その後はコロナ禍もあって、第9期(21年12月~22年11月)は2万8712人となっている。

「以前、柳川には年間130万~150万人の観光客が来ていて、御花の来場者は大体その1割でした。でも、ある時から柳川自体の観光客数は変わっていないのに、来場者がすごい勢いで減り始めました。これは柳川やその周辺の経済的な課題ではなく、御花の魅力がまったく伝わっていなかったという、私たち自身の課題だと痛感しました」

強い危機感を持った立花社長だったが、どうすれば物事が好転するのか分からなかった。そうこうしているうちに、全世界を新型コロナウイルスが襲った。

値上げを断行した理由

「お客さんは一人も来なくなり、もう太刀打ちいかない状況に陥りました」

コロナ禍が発生した直後のことを、立花社長はこう振り返る。20年4~5月は完全休業せざるを得ず、その後も施設を開けたり、閉めたりと繰り返したが、ほとんど来場者はいなかった。営業時間は午前9時~午後6時から午前10時~午後4時に短縮した。

 大広間。ここでは能の公演なども開かれる
写真提供=御花
大広間。ここでは能の公演なども開かれる

御花はかつて経験したことのない脅威に直面した。だが、それが結果的に立花社長の行動を変容させる起爆剤になった。

「売り上げがゼロになった時に、これで事業を諦めてしまうのはすごく悔しいなって。『本当に私がやりたかった御花はこれじゃない』と、ずっと葛藤しながらやってきたので、もうこうなったらやりたいようにしようと思いました」

立花社長が心底やりたかったのは、御花の文化的な価値をきちんと伝えること。そのためには、言われるがまま安売りしていては到底叶わない。価値の重さを理解してもらうべく、あらゆるものを値上げした。

入館料は20年末に700円から1000円に。団体ツアー客の受け入れを極力減らして、値引きを一切止めた。レストランなどでの宴会料金も改定した。そして宿泊費はコロナ禍前まで一人当たり平均1万5000円だったのを約3万円に。コロナ禍でさまざまな物事がリセットされたことで、本来の価値は何かを見つめ直し、その価値を守ることを最優先した。