そもそもバイデン氏の政策と相性が悪かった

ドルを武器化し利用する。この行為は、バイデン大統領が行った決断のなかでも、もっとも自らの首を絞める失策だったと思います。

しかし、たった一度の過ちで信用を失うということはありません。バイデン大統領は、これまでたび重なる失態をしてきたからこそ、中東をはじめとした第三世界からそっぽを向かれる状況になっています。

もともとバイデン大統領は、政治家に転身する前は弁護士として働いていた人です。そうした背景もあり、彼はマニフェスト(公約)のなかでも人権問題と環境問題を特に重視する大統領でもありました。

中東諸国のほとんどは王政であると同時に、個人に制約を課すイスラム教国ですから、人権的には問題を抱えている国は少なくありません。また、環境問題に関しても、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)は産油国ですから、1人当たりのCO2(二酸化炭素)排出量がとても高い。

はっきり言えば、中東諸国とバイデン大統領の相性は、スタートの段階からとても悪かったというわけです。ビジネスとして割り切るトランプ大統領とは正反対とも言えるかもしれません。

「人権的に問題のある国だからのけ者にする」

2018年にトルコのサウジアラビア総領事館で起きた、ジャマル・カショギさんというジャーナリストが殺害された事件は知っていますか? 彼はサウジアラビアのサウード家(王族)のスキャンダルや批判記事をアメリカの新聞「ワシントンポスト」に寄稿していたジャーナリストなのですが、サウード家が殺害指示を出したのではないかと噂されています。

人権問題に厳しいバイデン大統領は、この件をずっと追求していて、国際社会に向けて「サウジアラビアは人権的に問題のある国だからのけ者にする」といった趣旨を発言したほどでした。

サウジアラビアからすれば、アメリカが首を突っ込むことではないと煙たがります。

こうした状況下で、2022年7月にバイデン大統領はサウジアラビアを訪問します。ロシアによるウクライナ侵攻が始まって以降、原油価格が上昇し、アメリカ国内のインフレが加速。アメリカのガソリン価格も高騰していたので、石油価格を下げなければいけないということで、石油の増産を働きかけるために訪れたわけです。

写真=Balkis Press/ABACA/共同通信イメージズ
バイデン大統領を迎えるサウジアラビアのムハンマド皇太子=2022年7月15日