JA農協発展のための減反政策

減反はJA農協発展の基礎である。

米価を高く支持したので、コストの高い零細な兼業農家が滞留した。かれらは農業所得の4倍以上に上る兼業収入(サラリーマン収入)をJAバンクに預金した。また、農業に関心を失ったこれらの農家が農地を宅地等に転用・売却して得た膨大な利益もJAバンクに預金され、JAは預金量100兆円を超すメガバンクに発展した。減反で米価を上げて兼業農家を維持したこととJAが銀行業と他の事業を兼業できる日本で唯一の法人であることとが、絶妙に絡み合って、JAの発展をもたらした。

「米価が下がると農家が困るのではないか」「コメ生産が維持できなくなるのではないか」という指摘がなされる。しかし、コメ生産を維持するために、コメ生産を減少させる(減反である)というのは矛盾していないか。

また、アメリカやEUは農家の所得を保護するために、かなり前から高い価格ではなく直接支払いという政府からの交付金に転換している。よく私は「欧米では農業保護のやり方を高い価格ではなく財政からの直接支払いという方法に転換したのに、なぜ日本ではできないのですか?」という質問を受ける。農家にとっては、価格でも直接支払いでも、収入には変わらない。なぜ、日本の農政は価格に固執するのか? それは、欧米になくて、日本にあるものがあるからである。JA農協である。

アメリカにもEUにも農家の利益を代弁する政治団体はある。しかし、これらの団体とJA農協が決定的に違うのは、JA農協それ自体が金融業などの経済活動も行っていることである。このような組織に政治活動を行わせれば、農家の利益より自らの経済活動の利益を実現しようとする。その手段として使われたのが、高米価・減反政策である。

米価を下げても主業農家に直接支払いをすれば、主業農家だけでなくこれに農地を貸して地代収入を得る兼業農家も利益を得る。しかし、直接支払いが交付されない農協にとっては、価格低下で販売手数料収入は減少するし、零細兼業農家が農業をやめて組合員でなくなれば、JAバンクの預金も減少する。農協にとっては良いことがないのだ。

農林水産省は政府備蓄米の放出を拒否

減反政策によって、コメの全農と卸売業者との取引価格(相対取引価格)は、60キログラムあたり、2021年産1万2804円から、2022年産1万3844円、2023年産1万5306円(7月は1万5626円)となり、この2年間で20%も上昇した。農林水産省としてはシナリオ通り米価を上昇させて満足しているところだろう。

去る7月19日の記者会見で坂本農林水産大臣は、昨年(2023)産米の相対取引価格について、「令和5年産米の6月の相対取引価格は、最近の中では平成24年産の同時期の1万6293円に次ぐ価格となっています」と述べ、卸売業者が全農に支払う価格が10年ぶりの高水準になっていることを認めた。

さらに、坂本大臣は、今年(2024)産の早期米(他の産地よりも早く出荷されるコメ、早場米ともいう。)の概算金(JA農協が農家に支払う仮払金)の価格について、「令和6年産の早期米の概算金の大幅上昇について、鹿児島県産コシヒカリの7月末までの概算金が、60kg当たり1万9200円など、前年産に比べ6000円高い価格で決定されていることは報道により承知しています」と述べている。31%の価格上昇である。

それでも坂本大臣は、「私自身は、需給が引き締まっているということで、特段、これによってさまざまな対応をするというような状況にはないと思っています。」と述べているのである。米価の上昇はJA農協と農林水産省にとって成果以外の何物でもない。コメが不足したからといって、備蓄米を放出すれば、供給が増えて米価は低下する。大阪府の吉村洋文知事の備蓄米放出という要請を大臣は拒否した。

写真提供=共同通信社
政府備蓄米を保管している鮫川運送の倉庫=4月、福島県矢吹町