超高齢者から高齢者に遺産が受け継がれる時代に

老後といえば、反射的に生活のダウンサイジングとか介護の不安という言葉が出てきてしまいますが、その一方で、高齢者はかなりの額のお金を持っていて、しかし、それを使おうとしない傾向も顕著なようです。

金融広報中央委員会の調査によれば、2021年時点で、二人以上世帯で世帯主が60代の世帯、70代の世帯で平均貯蓄額は2000万円を超えており、それ以下の世代と比べて突出しているそうです。

実に60代で日本の家計金融資産の26パーセント、70代以上で37パーセントを所有しているのです。

これには「超高齢化」も関係しています。最近は、遺産が超高齢者から高齢者に受け継がれている傾向が強く、これも金融資産を高齢者に偏在させている大きな理由になっているという指摘もあります。

私から見れば、遺産を受け継いだような場合、高齢者はなぜそれを金融資産に回してしまうのか、残りの人生を楽しむために使おうとしないのか、ちょっと不思議です。

65歳、70歳ともなれば、残りの人生の展望も見えてくるでしょう。旅行に出かけたり、おいしいものを食べるといっても、それを楽しむ時間がそう長く残されているわけではないことも自覚すべきだと思うのです。

元気に活動できる間に、どれだけ上手に自分のお金を使いきるか

病気やケガをして健康を損ねたり、あるいは食事制限ができたり、連れ合いに介護が必要になったりする可能性は高くなる一方です。

知人のUさんは、一人で好きなところに、好きなように行けるのは70代半ばぐらいまでだろうと見込みをつけ、60代後半頃から、蓄えを惜しげもなく取り崩すようになったと笑っています。元気でいられる残り時間を精一杯楽しもうと方向転換したわけです。

写真=iStock.com/kumikomini
※写真はイメージです

「お金は本来、貯めておくものではなく、生かして使うものだから」というUさんの考え方はまことに的確なものだと思います。

昔から「棺を閉じるその瞬間に、最後のコインをチャリンと落とす。そんな生き方ができたら最高だ」とよく言われます。

いつまでも不安にかられて大枚を握りしめていても、あの世に持っていくことはできないのです。

人生の持ち時間、それも元気に活動できる間で、どれだけ上手に自分のお金を使いきることができるか。生き方上手かどうかは、ここで分かれるのではないでしょうか。