広汎性発達障害とADHDの診断

小学3年の時に落ち着きの無さからいじめに遭い、チック症状がひどくなったのを機に、長男を自治体の「子ども相談所」に連れて行ったところ、「できることとできないことの幅があるので、診断名がつく」と指摘され、診察を勧められた。

3歳児半健診でもスルーされていた「おかしさ」には、診断名があったのだ。尚美さん自身で調べたところ、「アスペルガー」こそ、長男の行動にぴったりだと確信した。しかし、診察ではこう告げられた。

「広汎性発達障害とADHD(注意欠如・多動症)です。脳の器質からきている障害で、治るものではありません。IQは118で高校に進めますが、通信制か単位制しか行けないでしょう。それ以前に、不登校か、ひきこもりになる可能性が高いです」

広汎性発達障害は今では「自閉症スペクトラム」という診断名がつくものだが、アスペルガーもそこには含まれる。結果的に、この医師の言葉で、尚美さんは呪いをかけられたと言っていい。

「普通の、元気のいい、好奇心旺盛な子だと思っていたのに、あまりのショックで、そこから半年間、毎夜、泣き続けました」

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「お母さん、このままでいいんですよ」

長男は診察のたびに、医師の聴診器を取ろうとし、医務机の引き出しを開けたり閉めたりする行為が止まらない。医師は冷たく、言い放つ。

「『これは基本的なことだから、母親が直させてください』って、それがショックで……。それができないから、今まで苦しんできたのに」

ただし診断が出て、腑に落ちるところはあった。ラグビーの試合で使いものにならないのは、相手の様子をうかがうことができない特性ゆえのこと。臨機応変に、阿吽あうんの呼吸で相手にパスが出せるわけがない。

「本人にとって、かなり複雑なことをさせていたのに気づきました。息子の能力を超えた、不得意な分野を、私は彼にさせていたんだなーって」

長男の未来に絶望し、泣き続けた半年だった。それでも尚美さんは、発達障害に手厚い病院の予約を取り続け、ようやく診察につなげた。確かに診断名に、間違いはなかった。長男はこの診察室でも、医師の聴診器を取ろうとする。「やめなさい!」と長男を叱る尚美さんを、医師は静かに制した。

「お母さん、このままでいいんですよ、無理やり治さなくても。これからは、この子の特性の、良いところを伸ばしていきましょう」