勉強にハマり、私立高校に合格

初めて見えた、希望だった。

「その日に、はっきり思いました。涙を流している暇など、ない。療育を頑張ろうと」

尚美さんは教員と、常に連携を図った。小学5年から「言葉の教室」という通級(=通級指導教室。特別の指導を受ける特別な場)に通い、「児童デイサービス」が近隣の自治体に先駆けて地元につくられたことを知り、放課後、週1で通うことにした。

では、中学をどうするか、尚美さんは教員と話し合い、支援学級に在籍し、授業は普通学級で受けるという選択肢を選んだ。

「支援学級に所属したほうがいろんな先生に見てもらえるし、普通学級だと埋もれてしまうという指摘でそうしましたが、これが本当によかった。実際、普通クラスの担任と、支援学級の担任と副担任の先生に、何度も助けられました」

長男は中3で勉強にハマり、偏差値が1年間で「8」上がるという快挙を達成する。高校は担任の希望で上位の公立ではなく、面倒見のいい私立にということで、授業料免除制度もあったため、私立高校を受験、合格した。

高校生になる前、尚美さんは長男に自身の障害について告げたところ、高校では障害を隠し通したいという強い意志を長男は示した。

「だから、高校では何の支援もなく、本当に苦労しました。テスト範囲も先生の話をメモすることができず、違うところを勉強しているので、『特別進学クラス』の落ちこぼれでした。高2では毎回、水泳授業に水着を忘れて見学だったので、出席不足のため長距離を泳がされ、疲れ果て、家で暴れたこともありました」

コロナ禍での大学生活の日々

大学進学を見据え、高3の12月に書店で一緒に見つけた参考書に長男はまたもやハマり、2カ月間、集中して勉強した。センター試験では志望校の他にも合格を勝ち取り、家から通える有名私大の農学部に進んだ。

高校で苦労したため、大学では発達障害のサポートを受けようと、尚美さんは入学前に相談に行き、週1で保健室に通い、見守りの体制を準備したが、コロナによる緊急事態宣言で全てが吹っ飛んだ。

「勉強はやり切った感があって、オンライン授業の間、ずっとスマホで対戦型将棋をしていて、1年間で4段まで昇段しちゃいました。なので、授業のレポートは私がかなり手伝いました。自己紹介のパワポも、私が作りました。大学ではどういう形でも、人とつながったほうがいいと思ったので、Twitterで本人になりすまして、大学の将棋部に連絡したり。お陰でZoomで対戦できることになって、実際の対戦にも出かけて行きました。これも本人がハマった結果です」

携帯電話を使用する人
写真=iStock.com/dragana991
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尚美さんは長男とのこれまでの関わりから、本人の得意分野を見極めて、ちょっとしたサポートをすることが必要だと痛感している。

「ちょっとしたサポートがないと、一人では難しい。私のサポートがなかったら、将棋依存症で終わっていたんじゃないかな」