「一体、どんな躾をしているんだ!」
今から思えば、長男は発達障害の特性を縦横無尽に発揮していた。出先で何か見つけると、車が来ようがそこに突進していく。公園では、他の子のおもちゃが欲しいとなったら、その子をいきなり突き飛ばしてでも奪う。「貸して」というコミュニケーションは、長男には存在しないものだった。そのおもちゃを壊すこともしばしばで、「本当にすみません」と親子に謝り、弁償するのが、尚美さんの公園での日常だった。
病院に連れて行けば、靴を脱いだ途端、長男はつないでいた手を振り払い、診察室へ突進し、別の患者がいるのに、診察室のベッドに寝てお腹を出す。スーパーに行けば、欲しい物を買ってもらえるまで、ひっくり返って泣いて暴れる。一時も、目も手も離せない、嵐のような子育てだった。
いつも、どこからか、声が聞こえてくる。「一体、どんな躾をしているんだ!」。尚美さんは針の筵にいるように、居た堪れなくなる。
「どうして、他の子とこんなに違うのか……。母親として、劣等感の塊でした」
あまりの極端さに「おかしい」としか思えない
長男は知的には問題がないどころか、むしろ知能が高いとさえ思われた。大好きなポケモンのキャラクターを覚えたい一心で、幼稚園年長の時に、1週間強でカタカナが全部読めるようになったり、ポケモンセンターではカードゲームのシステムを瞬時に理解して、大人と対戦したり……。興味があるものには深く没頭し、理解力も発揮する。そうでないものは歯牙にも掛けないという、あまりの極端さに、尚美さんは「おかしい」としか、思えない。
幼稚園では一人遊びに没頭し、友達を必要とせず、他者と何かを共有して遊ぶことは一切しないし、興味がない。小学校に入っても、問題行動ばかりが目立った。授業中、椅子をガタガタと揺らし、4〜5回、後ろにひっくり返り、頭を打つ行為を繰り返す。
人とのつながりを作ってほしいと願う尚美さんは、平日の送迎が不要という理由でラグビーチームを選び、長男を入れた。だが、ラグビーの試合でも言われたことしかできない、空気が読めないという長男の「おかしさ」を、尚美さんは確信することになる。