正常化には長い年月を要する

インフレ鎮圧には、ばらまいたお金の回収、すなわち日銀の保有国債額の減少が不可欠だ。1980年のボルカーショックで当時のFRB議長ボルカー氏が、悪性インフレ鎮圧のために金利操作の替わりに「どれほどのお金を回収するか」を政策目標にしたことからも明らかだ。サタデイ・ナイト・スペシャルと呼ばれる。

国債保有額を異次元緩和前の状態(=正常状態)に戻せるか否かで日銀がインフレに対処できるか否かを決定する。この点に関しては私の敬愛する元日銀理事・山本謙三さんが7月3日に配信した論考が非常に参考になる。

山本さんは日銀の正常化には以下の通りの年数を要すると指摘している。

(1)今後の買い入れ額をゼロで固定する=当面2年間の買い入れ額も月額ゼロ(償還額月5.9兆円)。
⇒正常化の完了に約10年

(2)今後の残高圧縮額を月3兆円に固定する=当面2年間の買い入れ額は月2.9兆円程度(買い入れ額2.9兆円マイナス償還額5.9兆円)
⇒正常化の完了に約13年

(3)今後の残高圧縮額を月1.5兆円に固定する=当面2年間の買い入れ額は月4.4兆円程度(買い入れ額4.4兆円マイナス償還額5.9兆円)
⇒正常化の完了に約26年

正常化が完成するまではお金ジャブジャブ状態だ。お金を回収してインフレを制御できないということだ。それができないのなら、日銀はもう中央銀行のテイをなしていない。

マスコミは「利上げ」だと大騒ぎしているが…

7月会合で日銀は短期政策金利を0.25%へと引き上げたが、0.15%程度の引き上げなど豆鉄砲にすぎない。世界で利上げというのは0.25%か0.5%上げることである。0.15%の上げなど世界では利上げとは言わない。変更なし、と表現するのが正しい。

ちなみに「3月に政策金利を0.2%上げた」とマスコミは騒いでいるが、これはリンゴとオレンジを比べているに過ぎない。完全なミスリードだ。

3月の政策決定会合前の政策金利とは、日銀当座預金のごく一部にかかっていたペナルティー金利を指す。一方で現在の政策金利は、無担保コールオーバーナイト金利のこと。後者(現在)の定義では、3月会合前後を比べれば政策金利は0.003%というシミ程度しか上昇していない。

リンゴとオレンジを比べれば0.2%上昇したかもしれないが、リンゴとリンゴで比べれば0.003%しか金利は上昇していない。3月会合で利上げなどしていないのだから、7月会合の0.25%への利上げは「最初の利上げ」ということになる。更なる利上げとはおこがましい。

日銀の「追加利上げ」は困難である

もう一つ、日銀は「追加利上げ」をできるのか、についても述べておきたい。

今年3月7日の参議院財政金融委員会で、財務省の正木日銀局長は私の質問に「付利金利が0.5%に上がったときに2.5兆円の支払い金利となる」と答弁された。超過準備額500兆円×0.5%という計算だろう。