ベセソ氏がやむなく使用したのは、アヘドさんの母親がつい先ほどまでパンを作っていたキッチンテーブルだ。彼はあり合わせの包丁とハサミ、そして縫い糸を手に取ると、アヘドさんの脚をテーブルに横たえ、そして切断した。

米CNNの別記事よると、アヘドさんはまだ17歳の若さだ。器具も医薬もないなか、即席手術の激痛に耐えた。「麻酔などありませんでした。聖書を暗唱し、心を鎮めました」と彼女は語る。

即席の手術は、感染症のリスクが高い。だが、ガザの医療システムは限界に達しており、これがベセソ氏にできる精一杯の治療だった。ガザでは多くの病院が完全に機能停止しており、麻酔や抗生物質などの供給も不足しているという。

国際救助委員会のシーマ・ジラニ博士は、ニューヨーク・タイムズ紙に対し、ガザの状況を「地獄のような光景」と表現している。火傷を負って足を失った6歳の少年や、手足を失い血を吐いている1歳の幼児の様子を、彼女は目の当たりにした。「これ以上に緊急を要するケースがあるとは到底想像できません」と、現地の差し迫った状況を語る。

このようにガザ地区の人道危機は、極めて深刻だ。多くの人々が重傷を負い、医療システムが機能していれば防げたであろう感染症によっても被害が拡大している。国際社会からの支援が求められているが、現状では十分な支援が届いていない状況だ。

人口の96%が食糧危機の状態にある

食料も足りない。ガザ地区の人道危機の中でも、特に深刻な問題となっているのが飢餓問題だ。住民の多くが食糧不足に苦しんでおり、子供たちが栄養失調で命を落とすケースも増えている。

ガザで育児をする30歳女性のダイアナ・ハララさんは、国連組織から派生した人道NPOメディアの「ニュー・ヒューマニタリアン」に対し、「私たちが経験していることを表すのに、『飢饉』以上の言葉が見つかりません」と語る。

ハララさんは、「小麦粉と缶詰の食料しかなく、それも支援物資としてかろうじて手に入る状況です。支援は不定期ですし、量も多くはありません」と語る。彼女の一家は、昨年10月7日にハマスが攻撃を仕掛けて以来、9回も強制的に移動させられたという。やっと手に入れた貴重な食料さえ、避難のたびに置いて行かざるを得ない。

ガザ地区のハン・ユニスに住む62歳のナイーマ・アル=アシュールさんは、「私たちはほぼ1年間、缶詰の食料で生活しています。これ以上どれだけ続けられるか分かりません」と語った。彼女の家族は、子供や孫も含め15人の大所帯だ。別の母親は、清潔な水すらなく、みな1日1食から2食でしのいでいると語る。