幻となった「クリントン訪朝」

【手嶋】沖縄サミットでは、クリントン大統領に同行して私も現地でアメリカ側の取材をしていました。この時、クリントン、プーチン会談が行われたのですが、プーチン大統領は、この席で金正日氏の代理打ち上げ提案を伝えたのですね。全く知りませんでした。

手嶋龍一・瀬下政行『公安調査庁秘録 日本列島に延びる中露朝の核の影』(中央公論新社)

【瀬下】金正日氏は、先ほどの発言に続いて、「クリントン大統領が沖縄に行った時、プーチンが伝達しましたが、(クリントン大統領は)興味深く聞き、関心を持っていたという話を聞いた」と述べたとされています。

【手嶋】プーチン大統領にとっては、クリントン大統領への格好の手土産になったのでしょう。その後、米朝間では、オルブライト国務長官の訪朝が2000年10月に実現し、それを踏まえて、クリントン大統領がアメリカ大統領として初めて訪朝することも現実味を帯びていました。北朝鮮の核問題が解決に向けて動くかに見えた時期でした。しかし、その年の大統領選挙の混乱で、結局、クリントン訪朝は実現しませんでした。

プーチンの「絶妙なアイデア」の狙い

【瀬下】金正日総書記は、オルブライト長官に「代理打ち上げ」の提案を直に持ち出しています。金正日氏は、オルブライト長官を大規模なマスゲームの観覧に招待するのですが、1998年に初めて発射した衛星運搬ロケット「テポドン1」の発射場面が登場した際、金正日氏は「これが最初で最後の人工衛星打ち上げになるかもしれない」と述べたと言います。こうした北朝鮮の衛星開発への思いをプーチン大統領はよく知っているはずです。金正恩総書記が偵察衛星打ち上げにてこずっているのを知っていて、あえて宇宙基地に金正恩総書記を招き、手を差し伸べる絶妙なアイデアを考え出したのでしょう。

【手嶋】ただし、ウクライナ戦域に投入する武器や弾薬、それにミサイルを見返りに提供させる。プーチン大統領がそんなに気前がいいはずはありませんから。

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