見下していると必ずしっぺ返しを受ける
【手嶋】一方、世界ではいま、民間企業が打ち上げる商業衛星の性能が急速に高まっています。アメリカの衛星運用会社「マクサー・テクノロジーズ」社は、解像度30センチメートルの衛星をビジネスとして顧客に提供しています。ウクライナの戦いでは、戦場の模様を捉えた「マクサー」社の高精細な画像が多数公開され、戦争報道の様相を一変させました。これらの画像を見ると、進軍するロシア軍の車列、空爆された建物、破壊されたダムの様子がじつに鮮明に映っています。
北朝鮮が今後、こうした商用衛星の技術を取り入れる可能性も考えておくべきでしょう。サイバー攻撃によって偵察衛星に関連したハイテク技術情報を窃取し、さらにロシアから技術提供を受ければ、北朝鮮の偵察衛星は性能をぐんと向上させていくでしょう。いまは技術水準が高くないと見下していると必ずしっぺ返しを受けるはずです。
「人工衛星をアメリカに代理で打ち上げてもらいたい」
【瀬下】プーチン大統領が金正恩総書記を宇宙基地に招いた光景を見ていて思い出したことがあります。少し前の話ですが、2000年7月、プーチン大統領は、沖縄で開かれたG8九州・沖縄サミットに参加する途上、北朝鮮を訪問しました。この時、当時の金正日総書記が、「人工衛星をアメリカに代理で打ち上げてもらいたい」とプーチン大統領に告げたのです。ロケット1発を打ち上げるのに2、3億ドルの費用がかかる、アメリカが衛星の打ち上げをやってくれれば、我々はロケット開発をしない、ロシアからアメリカにそう伝えてほしいと述べたと言います。
【手嶋】ちょっと待ってください。衛星の代理打ち上げをアメリカに提案した。ロシアにじゃなく、ほんとうにアメリカに持ちかけたのですか、まちがいありませんか。
【瀬下】はい。金正日氏は、アメリカに代理打ち上げを提案したのです。この発言は、金正日氏がその年の8月に訪朝した韓国のメディア各社の代表たちとの午餐の席で披露したもので、これらメディアが報じています。6月に韓国の金大中大統領と史上初の南北首脳会談を実現させた後のことであり、得意の絶頂で饒舌になっていたのでしょう。ちなみに、金正日氏はこの席でイランにミサイルを輸出している事実を認める発言もしています。