議論や実践を進めた『逃げ恥』

『私の家政夫ナギサさん』も、バリキャリ女性が主役。製薬会社のMR(営業)で汚部屋で暮らす相原メイ(多部未華子)が、家事代行会社で働く妹の配慮で、スーパー家政夫、鴫野ナギサ(大森南朋)に家事を頼むところから物語が始まる。

『逃げ恥』は、就職に失敗した森山みくり(新垣結衣)が、SEの津崎平匡(星野源)宅で事実婚を装った住み込み家政婦になり、やがて2人に本物の恋が芽生え……という作品で、その後2人が結婚したことでも知られる。放送されたのは、子育て世代の共働き女性が増え、家事の省力化やシェアを求めるSNSを中心としたムーブメントが活発になり始めた頃。大いに話題になった同作が、その議論や実践をさらに進めた側面もある。

『逃げ恥』は家事の担い手が女性だったが、仕事として始めたことがポイント。2人が恋愛関係になったことで、有料だった家事を愛ゆえに無料にするのは「搾取」とみくりが主張した場面が山場。2人は、家事シェアのスタイルを模索していく。

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仕事で有能なのに家事は苦手なヒロインたち

『ナギサさん』以降は、昭和型の性別役割分業を男女逆にした点がポイント。3作とも男性は家事能力がとても高く、女性は仕事で有能なのに家事はほぼ何もできない。テーマこそ違うが、『西園寺さん』と同じ枠で今春放送された『Eye Love You(アイ・ラブ・ユー)』(TBS系)も、SDGsなチョコレート会社を立ち上げた社長のヒロイン、本宮侑里(二階堂ふみ)は料理しない設定で、料理が得意なインターン生、ユン・テオ(チェ・ジョンヒョプ)と恋に落ちる。脚本には、『ナギサさん』『西園寺さん』も手掛けた山下すばるが参加している。

男女逆転ドラマで共通するのは、いずれもヒロインが仕事はとても有能なのに家事能力がほぼゼロという点だ。しかも、『わたしのお嫁くん』の速見と『アイ・ラブ・ユー』の本宮は、人の先頭に立つ立場なのに、ついていくのが不安になるほどオドオドしている。家事ができない自分に、コンプレックスを抱いているからなのか?

ゴールデンタイムの連ドラは基本的に、F1と呼ばれる20~34歳女性をターゲットにしている。つまり、現代女性が憧れる恋人・夫像は、家事全般の能力が高く率先して担い、イケメンで仕事もできる人、とイメージしている。一方、主人公は、視聴者が自分を投影すると想定される。その女性像は、仕事で重宝される人間になりたいが家事はしたくない、あるいは家事能力には自信がない。